打ちのめされた「センスがない」という言葉
その頃の僕は、数IIで勉強がよくわからなくなっても、なんとか勉強に食らいついていた。それなりに手応えはあった数学のテストが返ってきた日、答案をぱっと見るなり、赤が多いのに気づいた。
おかしいなあ。80点は取れているという自信があったから、誰かの答案と間違えたんじゃないかと思った。だけど、答案は間違いなく僕の字だ。
点数を見ると、15点だった。
そのとたん頭は真っ白。先生による答案の解説があったんだろうけれど、まったく覚えていない。気がついたら授業が終わっていて、夢遊病者みたいに、職員室まで先生を追いかけて、デスクにまで詰め寄っていた。
「先生、僕は寝る間も惜しんで勉強したのに、なんで、こんな点数なんですか!!」
相当どでかい声を出したものだから、ほかの先生もびっくりしたと思う。でも、原先生しか目に入らない。そしたら先生は、「うーん」と、天井を見て、しばらくして……。
「要するに、センスがないんだな」
「センスがない」というのが一瞬何を言っているのかわからない。でも、「うっ」と思い至ったことは「もう挽回のしようがない」っていうこと。もう、この道を進んじゃいけないよ、というのを悟ったんだ。
センスという言葉は、いろんな意味合いがある。才能とも資質とも違う。志向も含まれている。好みとか、数学の方向性を知っているとかね。
「今回は残念だったけど、大丈夫だよ。頑張っていこう」そういう言葉もどこかで期待していたけど、原先生は過去、現場を渡り歩いてきた人だからね。できないことをできると言って、もしアクシデントにつながったら、えらいことになる。だからはっきり言ってくれた。センスがないということは、つまり、もうダメだということだ。
僕はしばらく絶句して、完膚なきまでに打ちのめされたんだな。17歳の挫折だった。