文春オンライン

「要するに、センスがないんだな」すべらない話の声優・若本規夫17歳の人生を救った恩師の言葉

『若本規夫のすべらない話』より #1

2022/04/23
note

そのおかげで「早稲田大学法学部」に合格

 でも次の瞬間、稲妻のような光がパチッと入ってきた。それでその場で、「3年生から、文系に移ります!」と言い放っていた。

 すると、原先生が、僕の目をすっと見て、「それがいいかな。それで決まり……」と言った。それを聞いて、妙にすっきりしたね。

 このとき温情で、変に慰められて、情をもったような言い方をされたら、僕は「もう少し頑張ってみます」と理系に残っていたかもしれない。そしたら最悪の結果になっていたと思う。それ以上、どんなに頑張っても成績は上がらなかっただろうからね。

ADVERTISEMENT

 自分でも薄々感じていたこと。僕は理系の才能はないなって。心当たりもあった。母方は筋金入りの文系家系。どうもそちらを受け継いだんだな。理系をあきらめて文系の道に進む。父にも話してわかってもらえて、高校3年生になって文系に移った。

 そしたら授業が面白いんだよ。するする入ってくる。数学とか物理とか、理系の科目はまず問題にとりかかろうというとき、目の前にブロックが積まれているように感じていた。そのブロックを取り除くのに、すごく時間がかかる。時間をかけて解き放して、やっと理解できる。だから、勉強が苦しいわけ。

 でも国語も歴史も英語も、授業を聞いているだけでわかるから、家に帰って勉強する必要がない。好きだから無理なく受け入れられるんだよね。

 すると、学年テストでいきなり200人中のトップ10に入った。それで、ものすごく楽になったね。原先生のおかげ。拝むような気持ちだよ。

 そうなるとなんだか、東京の大学に行きたくなった。そのまま関西大学にエスカレーターで行けるんだけど、東京に憧れもあったしね。

 それで受けたのが早稲田大学。受験も調子がよくてスラスラ書けて、法学部に受かっちゃった。