少林寺拳法との不思議な出会い
下の兄貴が中央大学を卒業したばかりで東京にいたので、下宿を見つけてくれて。上京したのが3月下旬のことだった。
その年の10月に東京オリンピックがあるというので、新幹線ができるという頃。でも、そのときはまだできていなくて、特急で大阪から7時間半かかった。
道中長いから、何か本を買おうと駅の構内で見ていると、背表紙に、『秘伝少林寺拳法』と書いてあるのを見つけた。「門外不出」と書いてある。売っている本なのに、「門外不出」ってのもおかしな話だよね(笑)。創始者・宗道臣の数奇な運命。戦争が終わって、中国大陸に残って、少林寺の長老と巡り会って、そこで鍛錬を積み重ねて、すべてを委ねて、法灯を得るという話。電車に揺られながら読んだそんな武勇伝の内容が、妙に頭に残っていたのかもしれない。
1週間後の早稲田大学の入学式。大隈講堂を出ると、クラブやサークルの新人勧誘の出店がずっと並んで、笛や太鼓で呼び込みをしている。
4号館の教育学部の前を通りかかると、『少林寺拳法 若人よ、来たれ!』と書かれたのぼり。フラフラッと近づいたら、ガバッとつかまれて、「入部希望か、はい、ここに名前書いて、下宿先の電話番号書いて、入会金は500円」って畳みかけるように言われて。それでなんとなく書くと、何月何日に1回目の合同練習がある、夕方6時半、体育館で2時間やるから来なさいと……。
どうしようかと思いながらもトレパン姿で行くと、新入部員が3、40人いるじゃない。先輩たちがぐるっと囲って、「構え!」って教えるのを見て習う。
気がついたら、ずっと続けていた。幼い頃から体が弱くて、身体を鍛えなきゃ、根性をつけなきゃ、社会ではやっていけないんじゃないかって思っていたのはたしか。
けれども、なぜそこに行ったのかはわからない。のぼりが見えたからというだけ。要するに、縁なんだよね。不思議と辞めようと思わなかったんだ。