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「要するに、センスがないんだな」すべらない話の声優・若本規夫17歳の人生を救った恩師の言葉

『若本規夫のすべらない話』より #1

2022/04/23
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 新人たちはほとんど少林寺拳法をしたことがない、まるっきりの素人。だからそのうち、昼も江戸川公園で練習して、目白のほうへ出て、椿山荘の横をぐるーっと回って1周して走る。それから、人を両肩にかついでスクワット、拳立て、腹筋。2時間みっちりだから、きつい。僕もきついはきついんだけど、徐々に体力がついてきた。春に新人が60人入ったんだけど、夏の合宿の時には25人しか来なかった。

 過酷すぎて倒れるやつも多かったけど、僕は意外と大丈夫だった。未熟児育ちで鍛えたからね……(笑)。結局、卒業時には、新人部員は6人しか残らなかった。僕が残ったのは、執念だな、意地。これを辞めたら、大学生活がダメになるなと思ったから。

 というのも、法学部に入ってすぐ、人の書いた法律を勉強するというのが、面白くないと気づいてしまった。僕には向かないと、早々に悟った。だから授業に出なくなった。大学には行っていたよ。授業に出ずに、図書館でいろんな本を読んでいた。

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文学部まで吉永小百合を見に行ったことも

 好き嫌いじゃないけど、僕は、ひらめきを大事にする。だから、瞬発力はあるんだ。でもね、順序立ててやることが非常に苦手なんだよ。だから、俳優業はダメなのね。

 俳優業は、積み重ねていかなきゃいけない。でも、声優は、スタジオに行って、パッと見て、パッとやる。セリフを暗記する必要もない。俳優は1カ月ぐらい稽古するし、セリフを覚えなきゃいけないからね。

 と言いながら、少林寺拳法はコツコツ頑張って積み重ねていくもの。自分の身体を鍛えることについては、何の苦にもならなかった。

 やっぱり格闘技をやると自信がつく。男っぽくなる。だけど、僕は奥手でガールフレンドもいなかった。少林寺拳法も男ばっかりだし、女っ気なし。

 一度だけ、文学部まで、みんなで吉永小百合さんを見に行ったことがある。

吉永小百合 ©文藝春秋

 吉永さんも早稲田の同窓生なんだ。学生食堂でクリームソーダみたいなのを飲んでるのを、遠目で見ていたよ。華やかな思い出といったらそれくらいだな。

若本規夫のすべらない話

若本 規夫

主婦の友社

2022年3月25日 発売

「要するに、センスがないんだな」すべらない話の声優・若本規夫17歳の人生を救った恩師の言葉

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