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(4)後輩棋士とのタイトル戦

 これは藤井が実現する記録というより、その対戦相手によるものだが、藤井は間もなく始まる第7期叡王戦で、出口若武六段の挑戦を受ける。出口は藤井にとって、タイトル戦で当たる初の後輩棋士(四段昇段が自身より後の棋士)となる。これまで藤井がタイトル戦で戦った相手は、渡辺明名人、木村一基九段、豊島将之九段。藤井は自身8回目のタイトル戦で初めて後輩棋士と戦うことになった。

 この視点でも過去の大棋士との比較をすると、まず大山康晴十五世名人が初めて後輩棋士とタイトル戦を戦ったのは1950年度の第1期九段戦、対板谷四郎九段戦となる。それ以前には塚田正夫名誉十段、木村義雄十四世名人と名人戦を戦っており、3回目で後輩とぶつかった。もっとも当時は名人戦と九段戦しかタイトル戦がなく、終戦直後の過渡期ということもあって、とても現在とは同一に扱えない。

これまでは先輩が勝ってタイトルを保持

 中原誠十六世名人が初めて後輩とタイトル戦を戦ったのは、1976年度の第17期王位戦、対勝浦修九段戦となる。それ以前に山田道美九段、大山十五世名人、内藤國雄九段、二上達也九段、有吉道夫九段、加藤一二三九段、米長邦雄九段、大内延介九段の8名と戦っていた。この王位戦の直前に、中原は自身にとって30回目となるタイトル戦の第35期名人戦を戦っており、実力制名人戦が導入されてからは史上最年少となる28歳で永世名人の資格を手にしていた。

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 羽生善治九段は、1993年度の第34期王位戦で初めて後輩とタイトル戦を戦っている。郷田真隆九段を破って王位を奪取し、史上最年少の五冠(当時)となった。この王位戦は自身9回目のタイトル戦で、それ以前に島朗九段、谷川浩司九段、南芳一九段、福崎文吾九段とのタイトル戦があった。

3月30日の王位戦、対西尾戦で勝利して2021年度の年度勝率1位を確定させた伊藤匠五段 ©️相崎修司

 上記の3例では、いずれも先輩が勝ってタイトルを保持している。今年度の藤井は叡王戦で出口と当たるほかに、王位戦でも後輩と当たる可能性(池永天志五段と伊藤匠五段が該当)がある。もし王位戦で藤井―伊藤戦が実現したら、おそらく空前絶後だろう10代同士のタイトル戦七番勝負となる。今年度も藤井将棋から目が離せない。

※2022年4月28日16時追記:一部の記録に誤りがあったため、修正と加筆を行いました。

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 藤井聡太竜王の記録については、文春将棋ムック『読む将棋2022』にも掲載されています。

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