16年。小学1年生の子どもが大学を卒業するまでの年数である。そんな長い時を経て、筆者の一門に新たな棋士が誕生した。

 岡部怜央22歳。山形県鶴岡市出身で、高校卒業までは奨励会の対局のたびに上京していた。大雪で新幹線が止まったときは休会を余儀なくされるなど、地方出身ならではの苦労も味わった。

岡部怜央新四段 ©️相崎修司

2006年以来、一門から待望の棋士

 師匠は加瀬純一七段。一門には、棋士が3名(入門順に、佐藤和俊七段、私、戸辺誠七段)と女流棋士(加藤圭女流二段)が1名いる。同じ千葉県に本拠を構える石田和雄九段門下(高見泰地七段など)、関西の森信雄七段門下(山崎隆之八段など)と比べると小規模な一門といえよう。

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 最後に棋士になったのは戸辺七段で2006年のこと。荒川静香さんがトリノ五輪で金メダルを取った年である。この時期は、佐藤七段が2003年、筆者が2005年と毎年のように棋士が誕生してお祝い事が続いた。しかし、それから16年。ずっと春を待っていた。

みなで吉報を待っていた三段リーグの最終日

 師匠は、今期三段リーグの途中からずっとソワソワしていた。聞くと、岡部四段がスタートから4連勝した段階で昇段を意識したそうだ。「岡部くん、強くなった」と言ってくれる棋士が多かったこともあるのか。それとも師匠に何か感じるものがあったのか。

 三段リーグの最終日、筆者はたまたま近くにいたこともあり、1局目(三段リーグは一日に2局行う)が終わった頃に将棋会館へ足を運んだ。すると、一門ではないけれど長兄のような存在の木村一基九段と偶然会って、「決まったよ」と聞いて安堵した。

 すぐに師匠へ報告したのだが、後日聞いたところ、木村九段からも奨励会の幹事を務める佐藤七段からも、いち早く師匠に連絡が入っていたそうだ。指導対局中の弟弟子(戸辺七段)にも連絡を入れたところ、すごい速さで返信がきた。妹弟子(加藤女流二段)も、その日は結果が出るまでスマホばかり見ていたと言う。

 一門で岡部新四段誕生に歓喜し、師匠の喜ぶ顔を思い浮かべた一日だった。