上京した弟をバックアップした岡部四段の兄
5年制の高専に通っていた岡部三段(当時)が4年生を迎える直前、
「これからの1年は大きいよ。早く東京においで」
そう戸辺七段に告げられ、東京に上京することになる。
岡部四段には兄がいる。奨励会には兄弟で入会したが、兄はすぐにプロの道を諦めた。兄は退会からしばらく後に高校生のチャンピオンになったので実力は間違いなくあった。おそらく奨励会の水に慣れなかったのだろう。対局のたびに上京するのも、子どもにとって大きな負担である。プロになるには実力以外の要素も大きい。
兄は東京の大学に進学し、上京した弟と一緒に住んでバックアップに努めた。師匠の奥様曰く、珍しいほど仲のいい兄弟だという。今回のプロ入りは、兄にとっても悲願成就と言えるだろう。
上京した岡部三段を戸辺七段はすぐ研究会に誘った。そして先輩棋士にもまれて実力をつけ、三段リーグの成績も向上した。
多くの若手棋士から練習パートナーとして愛されて
いまは、永瀬拓矢王座や佐々木勇気七段、三枚堂達也七段、近藤誠也七段など、活躍する多くの若手棋士の胸を借りているという。練習パートナーとして認められるほどの実力をつけている証拠でもあり、また可愛がられる性格もある。
筆者は、岡部四段が練習パートナーを務める棋士たちからお祝いとお褒めの言葉をたくさんもらい、兄弟子として誇らしかった。そして、プロに引き上げてくれた彼らに感謝の気持ちでいっぱいになった。
岡部四段が初段に到達した後に、奨励会の多くの弟弟子が次々と初段に到達した。いまは三段リーグに弟弟子が2名在籍している。岡部四段が先陣を切ることで、「あいつができるなら俺だって」と、そんな気持ちが生まれるのだろう。筆者の頃も、兄弟子(佐藤七段)が三段リーグの壁を破った後に弟弟子が続いた。岡部四段に続いて師匠を喜ばせられるよう、今度は彼らに期待している。
そして一門を盛り上げられるよう、弟弟子たちに負けぬよう、棋士の兄弟子たちも頑張らないといけない。そうして張り合いながら活躍を続けることが、師匠や一門を応援いただく皆様への一番の恩返しである。
岡部四段には山形県の期待も大きい。将棋の街「天童」を擁する山形県からは13年ぶりの棋士誕生だ。故郷である山形県を大いに盛り上げてほしい。
いまの若手棋士たちは、藤井聡太竜王のライバルになることを求められる。今後はともに戦う相手にもなるが、それでも兄弟子として、岡部四段には藤井竜王に迫るような活躍を期待している。