将棋界も新たな年度を迎えた。その初めにあるのが将棋大賞の選考会である。2021年度の最優秀棋士賞は、2年連続の受賞となる藤井聡太竜王だった。タイトルを二冠から五冠に増やし、記録部門でも最多対局と最多勝利の二冠で、文句のつけどころがない。満場一致での受賞となったのも当然すぎるだろう。

史上最年少で五冠まで上り詰めた ©️文藝春秋

 では2022年度の藤井竜王は、どのような記録を達成する可能性があるのだろうか。色々な角度から見ていきたい。

(1)タイトル戦での無敗記録

 藤井竜王が初めてタイトル戦番勝負に出場したのは2020年度の棋聖戦。当時の渡辺明棋聖を破って初タイトルを獲得して、史上最年少のタイトル保持者となった。それから今日に至るまで7回のタイトル戦番勝負を経験しているが、一度も失冠あるいはタイトル挑戦で失敗したことがない。この無敗記録はどこまで続くのだろうか。

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 過去の大棋士を見ると、大山康晴十五世名人は1963年度の名人戦から1966年度の名人戦まで19回連続のタイトル保持を達成している。この間、1963年度の王将戦で王将を取り返し五冠に復帰してから66年度の前期棋聖戦(当時の棋聖戦は年2期制)で敗れるまで、3年間も全冠保持を続けていた。それ以前にも1958年度の九段戦から1962年度の後期棋聖戦まで17回連続という数字がある。何といってもすべてのタイトル戦に出続けての記録というのがすごい。

 中原誠十六世名人は、1973年度の王将戦から1977年度の後期棋聖戦まで、17回連続でタイトル戦番勝負を負けなかった。

 羽生善治九段は、1994年度の棋王戦から1996年の名人戦までの9回連続がある。この期間はすべてのタイトル戦に登場し、全七冠制覇を達成した。そして、1997年度の王位戦から2000年度の王座戦まで、15回連続(この間のタイトルは四冠から五冠)でタイトル戦負けなしである。

 さすがに歴代の名棋士と比較すると藤井の数字はまだ少ないが、特筆すべきは藤井の記録がタイトル戦初出場からのものであることだ。大山と中原は初挑戦の番勝負で敗退しているし、羽生は初挑戦で奪取したものの、初防衛戦では敗れている。2022年度にすべてのタイトル戦に出て、かつ勝ち続けると14まで数字は伸びるが、あながち夢物語とも言えないのが藤井の凄さである。