新型コロナ感染症の震源地として名指しされ、差別的な扱いを受けた「夜の街」。感染症対策の様々な助成から水商売業界を除外する方針もあったなかで、抗議を続けてきたのが日本水商売協会代表理事の甲賀香織氏だ。
ここでは、水商売業界の実態から魅力までを描いた同氏の著書『日本水商売協会 ――コロナ禍の「夜の街」を支えて』(筑摩書房)から一部を抜粋。2020年4月以降、コロナ禍で無法状態と化していた新宿・歌舞伎町の“内情”を紹介する。(全2回の1回目/2回目に続く)
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新宿・歌舞伎町の“夜の店”では何が起きていたのか
4月、5月と休業していた店舗では、休業中、従事するキャストへの給料は支給されなかった。基本的に水商売では、出勤状況に応じてキャストに報酬を支払う契約がほとんどだからである。そのため、一部のキャストはその日暮らしのような状況だった。収入が途絶えることに耐えられず、パパ活アプリなどを使って個人的な営業を行うか、無店舗型の「ギャラ飲み」で稼ぐか、その時期でも営業している店舗で働くことになる。
休業が長引くにつれて、次第に休業している店舗の売れっ子キャストも、休業期間中でも営業している店舗に移籍するようになる。この業界の店の成功は採用にかかっていると言っても過言ではないほど、店舗にとってキャストは重要な存在である。にもかかわらず、苦労して集めてきたキャストたちが他店に移籍してしまっては、休業時期の後に店を再開することが困難になる。
こうした事情もあり、休業に耐えきれなくなった店舗が次々と営業を再開しだしたのだ。実際に営業を始めれば、それなりに客は来る。こうして、律儀に休業を守っている店だけが赤字を垂れ流す状況に陥ってしまった。