2015年8月、国内最大の暴力団組織「6代目山口組」が分裂した。離反側は「神戸山口組」を結成し、2022年の今も両者の対立抗争状態は続いている。
ここでは、ノンフィクションライターの尾島正洋さんが山口組分裂の裏側に迫った『山口組分裂の真相』より一部を抜粋。警察庁幹部も注目する6代目山口組若頭・高山清司の影響力を紐解いていく。(全2回の1回目/後編に続く)
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「すべては高山だ」
6代目山口組が2015年8月に分裂して以降、130件以上の対立抗争事件が発生してきたが、「潮目を変えるほどの事件」(警察庁幹部)は、高山が出所した2019年に集中している。
4月には神戸山口組山健組若頭が弘道会系組員2人に刺されて重傷、出所直前の10月には神戸市で神戸山口組山健組系組員2人が弘道会系幹部に射殺されている。そして出所翌月の11月には、尼崎市で神戸山口組古川組幹部が自動小銃で射殺された。
長年にわたり組織犯罪対策を担当してきた警察庁幹部は一連の事件について、「偶発的、場当たり的に起きているということはないはず。すべて関連性が窺える」と強調する。そして、 2019年の抗争だけでなく、岡山市の神戸山口組池田組若頭が、2016年5月と2020年5月に、2代続けて銃撃された事件も念頭に入れるべきだと語る。
「まずは(2016年5月に神戸山口組傘下の)池田組の若頭が射殺された事件が大きかった。池田組は岡山県などでの事業活動が活発で資金力が豊富な組織だ。神戸山口組を資金面から支えていることは誰でも推測できる。殺された若頭は6代目山口組側への切り崩し工作なども盛んに行っていたため、排除したかったのだろう。ここにまず攻撃を仕掛けた。
そして、(2019年4月の)山健組の若頭が刺された事件は、神戸山口組の本丸、中枢を攻撃したということ。これで相手に大きな打撃を与えた。そして(2019年10月に)山健組の組員2人が一度に射殺された。これは被害が大きいだけでなく、山健内部での動揺が広がったことだろう。6代目(山口組)側からすると効果は大きかったはず。
さらに、(2019年11月の)尼崎の自動小銃の乱射事件は、アメリカのマフィアの抗争を描いたギャング映画のようなショッキングな事件だった。これは心理的にも衝撃を与えただろう。
そして、再度、(2020年5月に)池田組の若頭を銃撃して、手を緩めなかった」
この警察庁幹部は、推測だとしながらも、半ば断定的に語った。
「高山が描いた戦略に基づいて行われていることが推測できる。すべては高山だ」