車のタイヤをあえてスリップさせながら、巧みな車体のコントロールによってギャラリーを魅了する「ドリフト」は、日本発祥のモータースポーツとして世界に認知を広げている。

 世界各地で開催される数々のリーグ戦のなかでも、最高の権威とされているのが日本の「D1グランプリ」である。4月23日に開幕する今季は、女性ドライバーとしてはじめて、下田紗弥加氏がシリーズを通じて参戦する。

 坂道発進すらままならなかったという彼女が、いかにして最高峰の舞台まで上りつめたのか。モータースポーツにおける女性ドライバーの立場や、ドリフト業界の今後の展望について、思いの丈を聞いてみた。

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競技車両のシルビアに乗り込む下田紗弥加さん

1回のサーキット走行で10万円

――モータースポーツは一般に「お金持ちのスポーツ」と言われており、かなり参入ハードルの高いイメージがあります。まず、練習にはどれくらいの費用がかかるものなのでしょうか?

下田紗弥加(以下下田) 普通にサーキットに1回練習しに行くだけでも、10万円くらいは必要になりますね。移動費のほか、ガソリンは大体満タン2回分くらい消費するので、2~3万円はかかると思います。さらに大変なのがタイヤで、1セット10分くらいで終わっちゃうので、安いものを使うにしても3セットで5~6万円くらい……。あとはサーキットの使用料として、1日1.5万円くらいが相場ですかね。

――週1ペースでも月に40万円……。ドリフトを始める以前にかなりの額を貯金していたとはいえ、お金の面で苦労することも多かったのでは?

下田 始める時にあらかじめ、「貯めたお金は2年くらいでなくなるだろうから、それまでに結果が出なければ諦める」と決めていたんです。

 また、幸いなことに、当時はスクールに通い放題みたいなプランがあったので、それを活用して費用を抑えていましたね。あとは、なるべくタイヤをもたせるために雨の日を狙ってたくさん練習していました。摩擦が低くなるので、減りが抑えられるんですよ。

下田さんの競技車両・S15型シルビア
タイヤの溝はほとんど消えかけている

――練習に来ている人はどんな方が多いんでしょう?

下田 これが、すごい年齢層が広くて。私のいるスクールには中学生から65歳くらいまで在籍しています。中学生の子は将来ドリフトのドライバーになりたいっていう感じで、お父さんにサーキットまで連れてきてもらって、貸し出し車両を使って練習していますよ。

 もちろん単純に車を操作する技術を高めたいっていう方もいますし、一番多い層としては、「若い時に憧れていた」っていう方ですね。子育ても終わって、経済力もそれなりについたから、若い時にできなかったことをやってみようという感じで。

 ただ、競技で生計を立てようという方は少なくて、大体はこのアマチュア大会で入賞したいとか、ライセンスを取りたいとか。何か目標のために頑張るみたいな感じですね。