タイヤのスキール音を響かせながら、白煙とともにコーナーを滑走していくド派手な車たち。
かつては峠の走り屋の代名詞だった「ドリフト」は、今、モータースポーツの1ジャンルとして昇華され、そのエンターテイメント性の高さから国内外で人気を博している。なかでも国内最高峰のドリフト競技大会「D1グランプリ」は、ドリフト競技の起源となった大会として、海外からの注目度も高い。
20年以上の歴史を有する同大会だが、4月23日に開幕する今シーズンにおいては、大会史上初の「女性ドライバーによるシリーズ参戦」が決まっている。殴り込みをかけるのは、「気合いと根性」が身上の下田紗弥加氏だ。
「普通のOL」だったという彼女は、一体なぜドリフト競技に目覚めたのか。
競技としてのドリフトとは
――日本はドリフト競技の発祥国と言われていますが、世間的には「ドリフト」という競技を知らない人も多いと思います。はじめに、競技としてのドリフトについてご説明いただけますか?
下田紗弥加(以下下田) いわゆるF1のようなレースが「速さ」を競うのに対して、ドリフトは「迫力」や「芸術性」を競う採点競技というのが大きな特徴です。車を滑らせている時の角度や速さといった基準から、どれだけ魅せる走りができているかを点数化するんですね。ちょうど、スピードスケートに対するフィギュアスケートにあたるイメージとでも言いましょうか。
――競技中の写真を拝見しているだけでも迫力がすごいです。
下田 一般的なレースと比べると、ドリフトの大会は小さめのサーキットで開催されるので、お客さんはスタートからゴールまでの様子がまるごと見渡せるぶん、現地の迫力は更にすごいですよ。現場のギャラリーの一体感みたいなものが大きな魅力でもあります。
あとは、競技の種目も、1台で走る「単走」と、2台でどれだけくっついて走れるかっていう「追走」というのがあって、それぞれ違う楽しみ方ができるのも一つの特徴ですね。
バレーボールのプロを目指していたが…
――ドリフトに限らず、モータースポーツの世界で女性ドライバーはそう多くありません。下田さんは昔からドライバーを目指していたのですか?
下田 いえ、もともとは、バレーボールのプロになりたかったんです。高校もそのために選んで、特待生として入学しました。でも、高校時代はずっと怪我に悩まされ続けて。3年生になるあたりでプロの道を諦めたんです。
これまで自分のすべてを賭けていたんですけどね。それが突然なくなって、しばらく腑抜けのようになってしまいました。「何もない人になっちゃった……」みたいな。それで、高校を卒業してすぐ就職して、普通にOLをやっていたんですが、「私の人生これでいいのかなぁ」という思いがずっとありましたね。