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背中に這い寄る得体の知れない恐怖

 昨夜、夜中に目を覚ましたFさんは、喉の渇きを潤すために1階のキッチンに降りていった。

 辺りはシン……と静まりかえり、部屋には外の街灯の明かりがかすかに入ってくる程度。

 ギッギッギッ……と家族を起こさないようにそっと自室のある2階から降りていったFさん。1階に降りると、奥の例の和室から父親の豪快ないびきが聞こえてきた。

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「(お父さんまたあの部屋で寝てるのか……)」

 どうしたものかな……そうぼんやり思いながら、Fさんはダイニングキッチンの冷蔵庫に向けて歩き出した。

 そのときだった。

 キッチン脇の食卓に、こちらに背を向けるように一人の男性と思しき人物が座っていたのだ。

 見覚えのあるパジャマ姿の男は、コップで何かを飲んでいた。

「え、お父さん?」

 そうポツリと呼びかけても反応はない。

 じゃあ、奥の和室で寝ているのはお母さん? そう思ったFさんは、飲み物のことも忘れてそっと奥の和室の前まで行き、襖をスッと開けてみた。

 お父さんが寝ていた。

 ジン……と得体の知れない恐怖が背中に這い寄ってきたが、Fさんはそれを振り払うように隣の部屋で寝ている母親の様子もそっと窺ってみたが、母親は当たり前のようにそこで寝ていた。

「お前はいい子だから、それ以上踏み込んだりしないだろ?」

 キイッ。

 Fさんが開けたままにしていたダイニングキッチンへつながる背後の扉が、そっと動いた。

 じゃあ、あれ誰……?

「お前はいい子だから、それ以上踏み込んだりしないだろ?」

 背後から父のような声でFさんはそう問いかけられた。

 質問の意図に思いを巡らせる間もなく、Fさんは振り返らずに慌てて2階の自分の部屋に駆け戻ったそうだ。

 この話を聞いたYさんは正直半信半疑だった。

 いくらなんでも荒唐無稽すぎないか? でも、そんな突拍子もない怪談じみた話をするほどに、Fさんの精神が追い詰められていたとしたら?