「お家に遊びにいってもいいかな? 私、心配だよ」
考えてみれば、Fさんのお父さんがこんな状態になっているのに、彼女の話にはほとんどお母さんが出てこない。しかも、聞くだにどうやら互いに違う部屋で寝ているようだ。
Yさんは考えるにつれて、Fさんの心のバランスが崩れているのでは、との思いが募っていったという。
「あのさ、もしよければで全然いいんだけど、今度の土曜とかにFちゃんのお家に遊びにいってもいいかな? 私、心配だよ。サークルの先輩にちょっと教えてもらいたいことがあって呼びたいんだけど、とか言ってくれれば入れてもらえないかね」
「え、いいんですか! ありがとうございます、お願いします!」
こうして、YさんはFさんの実家に一晩泊まることになったという。
土曜日。
授業が終わった二人は、そそくさと大学からバスに乗ってFさんの自宅に向かう。
いざとなると、自分が若干余計なことをしているのではという念にさいなまれ始めたYさん。いや、今回はあくまでご家族の様子を見るだけだし、何か一言物申しにいくわけではないんだ……と、自分に言い聞かせる。
「ねえ、お父さんがそういうことを言い出して、お母さんは何か反応はなかったの?」
「え、お母さんですか。まあ、『あっそ。好きにしたら』みたいな感じですね」
「けっこう冷たくあしらわれてるね……」
「あはは、確かにそうですね。お父さんってお母さんの尻に敷かれるタイプというか、婿養子だったらしくて、強く出れないんですよ。だから個人的には今回の件も、家庭で自分の主張をしたくてのことなのかなぁ、とか思うようにはしてます」
「あー、そうなんだ……」
なんだか、答えが出てしまったような気がする……男子とかもう一人くらい連れていったほうが話題に困らなかったかなぁ、Yさんはそうぼんやり思いながらバスの外の景色を眺めた。
大学を出たときにはまだ昇っていた夕日が徐々に姿を消し始めた頃、Fさんに肩をトントンと叩かれた。
「先輩、ここで降ります」
バスの車内に光る停車を知らせるランプの光。
「え、あ、了解」
プシュー。
耳に慣れ始めていたバスの喧騒は、そっけないくらいあっという間に消え去り、停留所に佇むYさんは、なんだか見知らぬ地にポツンと置いていかれたような、微かな不安感を覚えた。
(文=TND幽介〈A4studio〉)