本連載の原稿を書く際は、直前に作品内容を確認している。基本的にはDVDなどで視聴可能な作品を取り上げることになっているので、その点においては困ることはない。
ただ、一つだけ大変だったのは、泊りがけの取材や地方講演などの出張と連載原稿の締め切りが重なった場合だ。その際にはソフトとポータブルのDVDプレイヤーを宿泊先に持ち込んで視聴するのだが、これがそこそこの荷物になるのである。できるだけ身軽で旅に出たい身としては、それなりの不便となった。
ただ、最近はありがたいことに旧作邦画も配信が充実している。そのため、タブレットPC一つで事は足りるのだ。
しかもメジャー作品だけでなく名画座でもなかなかお目にかかれなかった作品も配信されているため、原稿確認用の視聴だけでなく、宿泊先での娯楽提供元としても機能。仕事と関係なく夜の空いた時間に観まくるようになった。
今回取り上げる『怪談せむし男』もそんな一本だ。これまでは鑑賞する機会のかなり少ない作品だったが、配信のおかげで今はどこででも気軽に観られる。そこで。現在京都での長期取材中なのだが、せっかくなので宿泊先での「お楽しみ」として味わいつつ、原稿に書くことにした。
主人公の芳江(楠侑子)が会社経営者の夫を精神病院で亡くすところから物語は始まる。夫の遺した山奥の別荘を訪ねる芳江だったが、ここが不気味なことこの上ない。
「番人」として出迎える謎の怪人(西村晃)。壁面に映し出される、夫が女性を焼き殺す幻影。地下室に作られた奇怪な祭壇と烏の生贄。突如として響き渡る謎の悲鳴――。怪奇映画の名手・佐藤肇監督らしいモノクロの陰影を存分に活かした演出により、不穏や恐怖が観る者にひたひたと迫ってくることになった。そのため西村晃はもちろん、洋館自体が一つの怪物かのように薄気味悪く浮かび上がり、映し出される全ての場面、存在する全ての空間が怖くてたまらなくなってくる。
加えて、洋館を訪れる面々もそれぞれに曰くありげで禍々しい。芳江に下心を抱く夫の父(加藤武)、野心のために彼を追い落とそうとする若い助手(江原真二郎)、裏に何かありそうな夫の担当弁護士(加藤和夫)、金をせびろうとする夫の愛人(春川ますみ)。そして、夫を降霊する霊媒師(鈴木光枝)――。欲望が入り混じる人間関係が怪奇描写と同時に展開され、容赦ない理不尽が連続する怒濤の終盤まで、一秒たりとも飽きが来ない。
いつでもどこでもレア作品を楽しむことができるし、仕事もできてしまう。つくづく便利な時代になったものだ。