昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

連載テレビ健康診断

超人のホームドラマ ヒーローも苦悩と無縁ではない――亀和田武「テレビ健康診断」

『スーパーマン&ロイス』(NHK)

2022/04/24

 男はつらい。呑気な時代があったんだな。いまは誰もがつらいと感じている。

 スーパーヒーローも苦悩と無縁ではない。シンプルな時代を生きたスーパーマンも歳を重ねた。新聞社の同僚、ロイス・レインと結婚した彼は、いまでは高校に通う双子の父親だ。

 といって、世界平和のため、〈悪〉と闘うヒーロー・ドラマの骨格は変わらないから、超人は悩む。

食卓を囲むクラーク・ケント(写真は4/10放送より)

 双子のひとりは、内向的で精神不安定だ。通院し投薬治療を受けている。そんな息子のカウンセリングに同行する予定が、謎の怪人による原子炉破壊を喰いとめるためキャンセルに。

 父親失格とスーパーマン(クラーク・ケント)は自分を責める。世界の平和と家庭の平和の両立は不可能なのか。いい奴なんだよ。

 ケントは生後すぐ、故郷クリプトン星が破滅したため地球に送られた。中西部カンザス州の田舎町で善良な夫婦が、空から落ちてきた幼児を優しく育てた。

 一人で暮していた母の葬儀を終え、ケントは決断する。静かな故郷に引っ越して、家族と一緒にいる時間をもっと増やそう。

 故郷のスモールヴィルは静かで美しい町だ。トウモロコシ畑がつづく農場は、ブラッドベリ「万華鏡」のラストのように無垢だ。

 しかし町は石炭産業の衰退とともに荒廃した。そんな町を喰い物にする大物実業家モーガン・エッジが暗躍する。エッジは、ケントとロイスが勤める新聞社も買収する。ケントは人員整理で解雇された。ロイスはエッジ批判の記事を改ざんされ、辞表を叩きつけて新聞社を退社する。

 ほぼ同時期に公開された映画『THE BATMAN─ザ・バットマン─』では、若き日のバットマン(ブルース・ウェイン)の苦悩が描かれた。〈悪〉の巣窟ゴッサム・シティを牛耳る悪人の正体を暴き、自分のルーツまで辿る。ウェインの心象風景は昏い。

 スモールヴィルもあくどい実業家に支配され、貧しい町民はトランプ支持者のように、彼を崇拝する。そんな町で、スーパーマンは世界と家族に加えて、隣人の平和まで守ろうとする。

 原子炉を破壊した謎のキャプテン・ルーサーの存在がドラマを引っ張る。ウォースーツを着た男は故郷の星がスーパーマンによって破壊された復讐のためといって襲ってきた。冷酷なスーパーマンが存在する並行宇宙があるのか。ルーサーがただの悪役でないことが、陰影を生んでいる。

 日本でも人気を博した初期スーパーマン俳優は謎の死を遂げている。ドラッグと差別、分断のアメリカを知らずに亡くなったのは幸福かもしれない。

 超人のホームドラマは、我々を和ませる。しかしバットマン同様に、己れのルーツ探しという苦味により複雑さが増した。傑作。

INFORMATION

『スーパーマン&ロイス』
NHK 日 23:00~
https://www.nhk.jp/p/supermanandlois/ts/J9VXR22WY8/

ツイッターをフォローして最新記事をいち早く読もう

週刊文春をフォロー