蘭々 当時、出演番組のスケジュールの合間を縫ってのレコーディングだったので、夜中から始まることもあったんですね。作詞が間に合わず、煮詰まることも多くて、現場で深夜まで作ったりもしていました。
最初は「泣かないぞ! 泣かないぞ!」だけだったサビの歌詞に、筒美さんが作曲家としてのこだわりから、「ここにもういっこ言葉が欲しい」と。で、「ぞェってどう?」って。
最初ふざけてる感じでなんか嫌だったんですけど、でもとりあえず歌うじゃないですか。すると小気味よいというか。歌ってて、とてもハマりが気持ちよかったんです。で、「ぞェ」になりました。
――まさに筒美マジックですね。
蘭々 これは最近、当時の現場スタッフから聞かされたことなんですけど、ド新人のレコーディングに筒美さんがいらっしゃることってほぼなかったらしいんですよね。でも、記憶をたどる限り結構な頻度で現場にいらっしゃって、一緒にいろいろ考えてくれたと思います。
そんな中、20歳の誕生日にGUCCIのバッグをプレゼントしてくれたことがありました。当時の私の中でのテーマはなぜか「アメリカの少年」で(笑)、だいたいTシャツと短パンだったので、「いつかこういうブランドが似合う素敵な大人になりなさい」ってことだったんだと思います。
「世の中すべてみんな 全部ウソツキ」の真意
――「泣かないぞェ」は蘭々さんが作詞もされていますが、「ゆびきりは 社交辞礼」「世の中すべてみんな 全部ウソツキ」といった部分が際立っています。
蘭々 そこは実はディレクターと揉めたところでもあって、「この『世の中すべてみんな全部ウソツキ』ってちょっとネガティブすぎじゃない?」って言われたんですよね。
でも「ここだけは絶対に変えたくない」って。ほんの小さな箇所なんですけど。私の中では当時も今も世の中ってそういうものだってずっと思っている節があって、なんか主張したかったんですよね、歌の中で。
――昨年のインタビューで「山があれば谷もあるって言うから人気が出た後は絶対下がると思うんです」という過去の発言を振り返っていたり、1999年に出された著書『スズキの開き』でも「CM女王なんてちやほやされても、こんなにいいことがあったら次は谷だぞー、とある種の覚悟はできていた」と書かれていたり。どこかこう、リアリストというか、達観しているところがあるんじゃないかと。
蘭々 そもそもそういうところがあって、でもなんでそうなのかは自分でもよくわからないんですけどね。
――大人の世界のドロドロした部分を目の当たりにしてしまったとか。
蘭々 なんなんでしょうね。ただ私には亡くなった8歳上の兄がいるんですけど、兄には知的障害があって。やっぱり障害者を取り巻く環境みたいなものを幼い頃に見てきたというのが影響しているんじゃないかって、そういうのはちょっと思いますかね。