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「娘さんが叩かれたこと、だれかに言った?」30人に囲まれて4時間の“犯人探し”…パワハラ監督を守る毒親たちの“ヤバすぎる倫理観”

『スポーツ毒親 暴力・性虐待になぜわが子を差し出すのか』より #2

2022/05/05

source : 週刊文春出版部

genre : ライフ, 教育, 社会, スポーツ

「娘さんがたたかれたこと、だれかに言った?」

「(県小連へ通報した)犯人はあなたでしょ?」

「正直に言いなさいよ」

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 リークしたのは自分ではない。美香はそう言った。「犯人」を連呼する親たちが恐ろしく、足元が震えた。

「私は(被害の翌日に)監督に意見はしましたが、何も知りません」

 すると、ひとりの親が大きなため息をつき、こう言った。

「“犯人”が出ないので、ОGを呼びました」

卒団生やその親たちは体罰やパワハラを容認

 スーッとふすまが開き、卒団生とその親、30人ほどが現れた。ぞろぞろと部屋に入ってきて、現役親と向き合うような形で座りこんだ。一気に人がなだれ込み室温が上がったからなのか、エアコンがゴーッと大きな音をたてた。

 Bがチームを指導して20年近くになるため、卒団生には30歳近い社会人もいた。引退した元全日本選手まで来ていた。親たちの多くは母親だが、父親の顔もあった。40~60代までさまざまだ。

 当然のことながら、Bを支持する卒団生やその親たちは体罰やパワハラを容認している。

「体罰を受けているのは子どもたちも分かっている。B先生の言うことを一回で聞いていれば、そうはならんやろ。大体、体罰の何が悪いん?」

 子どもは暴力も含めてBの指導だと理解している、暴力を受けるのはBの指示を守らない子どものほうが悪いと言う。20代の卒団生からは「親がこんなんじゃ、子どもがかわいそう」という声まで上がった。

 沖縄で行われる九州大会を8月に控えていた。「九州大会の前にまたあるのではないか」と県小連による聞き取りを恐れる発言が出たところで、保護者会長が「ちょっと提案があります」と話を切った。

 親たちの前に差し出されたA4のコピー用紙1枚は「誓約書」と書かれ、6つの項目が並ぶ。

 1 指導者の批判批評は一切しない

 2 他の保護者や子供達への批判批評、傷つける言動や行動は一切しない

 3  クラブ活動におけるケガや事故が起こった場合、他人を追求(原文ママ)しない

 4 チーム内で起こったことを公言しない

 5 チームワークを乱す行為をしない

 6 指導者、保護者、チーム全体について、関係協会や団体等に訴える行為をしない

保護者会の半数以上で上記を守れていないと判断された場合、退部となることを速やかに受け入れ、その決定に一切異議を述べません。

 その下に、了承した年月日と署名欄があり、捺印まで示されていた。Bを批判するな、事故が起きても追及するな、公言するな、訴えるな――何が何でも隠ぺいし、Bの独裁体制を支える約束をさせようとしていた。要するに「口止め誓約書」だった。

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