「本当はこんなことしたくはなかったんですけど、チームを守るためで、子どもたちの思いを守るためにこれは絶対に守ってもらおうと思って」と、作成した会長は誓約書を現役の親たちに配り始めた。すると、こんな声が上がる。
「この誓約書に印鑑を押したことで守れるか言うたら、ただの紙であって効力がないのでは。ここで打ち明けたほうがいいと思う」
全国大会に出るためなら倫理も人権も吹き飛んでしまう“毒親”たち
話が再び犯人探しに戻ると、現役選手の母親がしくしくと泣きだした。
「(連盟に訴えた親は)言いたいことばっか言って、我慢することを知らんのか⁉って感じですよ。今までこうやって伝統を守って皆さんが作ってくれたチームがこんな些細なことで、先生まで訴えられて……」
「もう団結できんのやったら、自分でなんかやりたいスポーツ見つけてやったらいいじゃないですか。本当にわが子しか見れんのやったら、自分のタイムが出る競技でもさせてくださいよ。絶対6人じゃないとできない競技ですよ。バレーは」
母親のなかには卒団生やバレー経験者もいた。自身の経験からすれば、暴力指導を我慢させられないのであればチームを去れということだろう。
それ以外は、チームの存続を危ぶむ声が大半を占めた。
「県小連とかに密告したら、自分の子どもに返ってくるのが、わかっちょんのか。バレたら子どもが高校に行けない可能性があるんやぞ」
「チームの存続が危うくなるし、監督が職を追われるかもしれんぞ」
加えて、謎の社会体育理論も。
「学校やったら横社会やけど、(クラブチームの)社会体育は縦社会。下が上に教わるとか、社会に出るための第一歩を教わるものだ」
縦社会だから暴力やパワハラOK。そのような危うい思想を持っていたからこそBを支えてしまったのだろうか。
そして、発言の中に頻出するのが「全国大会」の4文字だった。
「全国大会に出るために練習しているのに」
「全国大会に出るために一致団結しなければ」
全国大会に出るためならば倫理も人権も吹き飛んでしまうところは、本書の第1章で伝えたバレークラブとまったく同じだった。
リークした者を「犯人」に仕立てる異様な空気のなか、卒団生やその親たちは現役選手の親たちを「どうして今更こんな話が出たのか」と終始責め立てた。名指しこそなかったが「自分に対するものだと思った」(美香)。なぜなら、発言する者が全員ちらちらと、もしくはにらみつけるように美香のほうを見るからだ。