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 2008年3月。地裁で懲役11年の判決が下された(その後控訴するも判決は確定)。被害者側代理人の弁護士は会見でこうコメントした。

「部の成績さえよければという考えが、暴力などを容認するベースとなり、次第にエスカレート。保護者が予想もしない事態を招いてしまった」

 加えて、同事件は特殊なケースではなく、どの部活動でも起こりうると警鐘を鳴らした。 

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 気づかなかったとはいえ慚愧に堪えなかった晃一は、男子バスケット部のコーチを辞任した。

この写真はイメージです ©iStock.com

「殴ってもやさしい言葉をかければ」性被害を生んだ主従関係の実態

 後になって考えると、思いあたる節はあった。

 ある年、男女そろって九州大会にアベック出場したことがあった。いつもは男女別々の遠征がほとんどだが、このときは大会中に泊まるホテルも同じ。したがって、晃一はCや応援に来ている保護者らと食事に行った。

 午前0時を回る深夜にホテルへ戻ると、マネージャーたちがロビーでCの帰りを待っていた。Cを部屋まで連れて行くためだ。

「そこまでしなくていいよ。俺が一緒にいるんだし。俺が連れて行くから。おまえたちは先に寝ていいよ」

 晃一がそう伝えても「いえ、大丈夫です」と言い、翌日もロビーで待っていた。ホテルの廊下に消えていく生徒とCの背中を見送りながら、不思議な気持ちではあったが「不審」には思わなかった。

「今思えば、やはりおかしなことです。でも当時はそんなこと(性暴力)があるとは露ほども思わなかったし、彼がそんなことをやっていたなんてまったく気づかなかった」

 上述したように、Cは他校のコーチに「昼間は殴っても、やさしい言葉をかければ部員はついてくる」などとほのめかしている。だが、それに似た発言を晃一には一切していない。

 晃一がまだ中学生を教えていた時代、Cは自分のチームがなかなか勝てないことを悩んでいた。

「なんで俺のチームは勝てないんだよ」 

 苛立つCを、晃一は懸命に諭した。

「Cさん、いい選手が途中で退部しちゃうんだから、勝てるわけないでしょう。鍛えるのはいいけど、もっと愛情持ってやらないとダメだよ」

 何が何でも勝とうとするがゆえに、暴力や激しい練習がエスカレートしていた。Cからすれば痛いところを突かれたはずだが、そのときは晃一の話に素直に耳を傾けていた。正義感が強く生徒思いの晃一は、性暴力を知られたくない相手だったに違いない。