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揃い過ぎていた性暴力が生まれる条件

 その後、Cはある実業団チームの監督にバスケット指導のノウハウを教わるようになる。その監督に師事しコーチングスキルを身に付けたCは、全国大会で上位進出を果たすなど、チームを強豪校に育て上げた。

 ただし、その頃から晃一はCと疎遠になる。快進撃を続けるCが、師のように仰いでいた実業団の監督を袖にするように見えたからだ。この年以来、晃一はCとふたりで出かけたり、食事をともにすることはなかった。

 一方の晃一は、中学校のコーチ時代、福岡大学附属大濠高校を率いた田中國明(故人)を訪ねている。現在は田中が育てた卒業生が新監督に替わったが、2021年度ウインターカップも制した名門だ。挨拶もせず2階のギャラリーで練習を見ていた晃一を呼び寄せてくれた田中に「指導力を向上させたいと思って見学にきました」と言うと、「何でも聞いてくれ」と招き入れ、4日間通わせてくれた。そんな恩を大事にしてきた晃一は、Cが許せなかった。Cとの距離が埋まらないまま、時は流れていった。

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 事件が発覚する3年ほど前くらいから、Cのチームは県内のライバル校に勝てなくなった。相手校に長身の外国人留学生が入学してきたのだ。

「どの試合も僅差ですが勝てなくなった。それでCさんがちょっと焦ってるなというのは 感じていました」

 晃一は隣のコートでCが生徒に厳しくあたるのをじっと見ていた。留学生封じのための対策を教え込むが、生徒はなかなかうまくできない。

「そういうときの怒り方はちょっと激しくなられました。だんだん生徒が萎縮し始めるのがわかりました」

 晃一はCに苦言を呈した。

「子どもたちは何をどうしていいのかわからずパニック状態だ。子どもたちも、あなたも、ストレスが溜まっているのではないか」

 何度も指導を見直すよう勧めたが、聞き入れてはもらえない。それどころか、Cから反論された。

「これをやらないと、全国(優勝)なんか獲れないだろう」

 全国大会で上位に進んだプライドが邪魔したのか。あるいは晃一との関係性の変化も影響しただろうか。かつての同胞の言葉に、Cは耳を貸さなかった。

 20代からともにバスケットに情熱を傾けてきた晃一との関係の変化は、大きな影を落とした。周囲のバスケット関係者からは「関係さえ悪くならなければ、晃一さんはCさんの重石になっていたはずなのに」と残念がる声も聞かれた。

 勝てない苛立ちやストレスは間違いなくあった。それに加えて、学校や親による盲目の崇拝。親たちに乏しかったリスク管理。遠征や大会などでつくられる密室――。動機付けも、隠れて犯行に及ぶ環境も、性暴力が生まれる条件は揃い過ぎるほど揃っていた。

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