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2022/05/12

source : 週刊文春出版部

genre : ライフ, 教育, 社会, スポーツ

 試合で活躍したり、勝利すれば、それはCのおかげとなり、ひいてはその暴力さえ認めてしまう。なぜなら多くの親が、暴力を非としない環境で育てられている。その先に性暴力の危険があるとは思いもしなかっただろう。

「そっか、そっか。ご、ごめんな。こんな嫌なこと聞いて」

 晃一が声を震わせながら謝ると、生徒は「いえいえ」と胸の前で手を振って否定した。 

「別にいいですよ。それにね、私たち女子部員は、晃一さんが(男子部のコーチとして) いてくれて、少し救われてたんです。だって、Cさんが私たちに暴力をふるうと、あんたやりすぎだよって、Cさんを羽交い絞めして注意してくれたでしょ。冗談みたいにやってたけど、それでも私らにとっては救いだったんですよ」

 たった 17か18で言い表せない苦しみを味わったはずなのに、自分のことを気遣ってくれる。女子生徒の思いやりに、晃一は胸が詰まった。胸の中で(そんなこと言ってくれてありがとう。何も気づかなくて本当にごめん)とつぶやくしかなかった。

Cは生徒を家に呼んで……

 晃一は事実と向き合い始めた。時を同じくして取り調べが進み、被害届が6人出た、7人出た、と少しずつ増えていった。人数や犯行の状況などの情報も耳にするようになった。 

 氷山の一角だ。被害者はもっといる。

(性暴力が始まったのは)ここ数年の話じゃない。 

 Cは生徒を家に呼んでいた。

 生徒に避妊具を買いに行かせた――。

 聞きたくない情報ばかりだった。Cの弁護士を探していた母親も、さまざまな事実が明らかになっていく過程で「被害者の会」のほうに移っていった。晃一自身も事情聴取されたが「何も知りませんでした」と答えるしかなかった。

 被害届を出した生徒、出さなかった生徒、そして被害に遭わなかった生徒。その全員が、 実は卒業生やその保護者から激しいバッシングを受けている。

「Cさんは(被害生徒の)親にはめられたと言ってる。あなたたちが〇〇(高校名)をダメにしたのよ」

 被害生徒の保護者によると、国体メンバーに選ばれた生徒が、同部出身の社会人選手に試合で肘打ちをされるなど報復ともとれる行為を受けたという。卒業生からすれば、自分たちが功績を残したバスケット部の名誉を傷つけられたこと、恩義を感じているCを告訴したことへの怒りがあったのだろう。

 事件の影響から、娘を退学させて家族全員で別の土地へ引っ越す親もいた。職を替えた親もいる。なかには、こころを病みPTSDと診断された人もいた。

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