「彼女を庇っているわけでは、まったくないんだけど、全然気がつかなかったね。若い愛人を連れて、派手な人だとは思っていたけどさ、こんな事件なんてない土地で、殺人事件が起きるなんて思わないでしょう。彼女が逮捕されてから、そういえばと思ったのは、何度かうちに遊びに来た人が、魚が腐ったような、甘ったるい臭いがするねって、言ったんですよ。それが死体の臭いだったんだろうね。私はわからなかったけどね。あと、まわりの家にも信者の親族が訪ねてきたというから、発覚するのは時間の問題だったんだ」
江藤は何人もの人を死に追いやり、事件の発覚を恐れ、偽装工作を行った。そんな宗教者と言えない行動を取る教祖を目にしながらも、江藤の家から逃げなかった信者がいたのも事実である。
溺れるものは藁をも掴むという言葉があるが、信者たちは江藤のもとで救われることを望んでいた。医師に見放され病を何とかして治してもらいたいという思いもあったことだろう。それは、現代の医学や既存の宗教では、救済することができない心の飢渇を誰もが抱えていることの証しでもある。それゆえに、新興宗教にのめり込む人間は後を絶たない。
警察が目撃した「凄惨な光景」
警察が江藤に引導を渡したのは、1995年7月5日のことだった。現場からほど近い場所に暮らす女性が言う。
「朝起きて、外をみたらまわりは警察官と車だらけでびっくりしたんですよ。何が起きたのかまったくわかりませんでした。テレビの中継もされていたようですけど、そうしたら、友達から電話が掛かってきて、目の前の家で人が殺されたみたいだよって言うんです。えっ、まさかって思いましたね」
女性からしてみれば、殺人事件が起きていたことなど、まさに青天の霹靂だった。警察がものものしく江藤の家を取り囲んでいたのは、午前7時ごろのことだったという。
女性は、現場に立ち入った警察官たちから、その様子について話を聞いた。女性の話をもとに捜査員たちが見た風景を再現したい。