デイヴィッドはフォーチュン誌500に名を連ねる企業のマーケティング責任者の職を離れてストラテジストとして独立し、ブライアンはベンチャー投資会社を辞めてハブスポット社というマーケティングソフトウエアの会社を起業したばかりだった。つまり、どちらも「先が見えない無名の存在」だった。
成功の秘訣は「企業カルチャー」にあった
二人の出会いのきっかけは、デイヴィッドが刊行した『The New Rules of Marketing and PR』という本だった。2007年当時はまだインターネットを利用したマーケティングという発想がほとんどなかった。伝統的なマーケティングの手法を打ち破る新しいマーケティングとPRの戦略について提唱するこの本を読んだブライアンが「僕と同じことを考えている人がいる!」と感動し、オフィスに招いて、これからのビジネスの可能性について語り合った。
会ってすぐに二人は「初対面とは思えないほど気があう」と胸を躍らせた。尽きない話の途中、ブライアンはデイヴィッドのマックブックにグレイトフル・デッドのスティッカーが貼ってあることに気づいた。彼のマックブックにも同じようにグレイトフル・デッドのスティッカーが貼ってある。相手が自分に負けないほど熱烈なデッドヘッズだと知った二人は、次はグレイトフル・デッドが自分たちに与えた影響について熱く語り合った。
その日「生まれたときに離れ離れになって再会した兄弟」のようだと意気投合した二人は、「グレイトフル・デッドのマーケティング」について一緒に講演をするようになり、ブライアンはデイヴィッドに会社の諮問委員会のメンバーになってくれるよう頼んだ。
それから14年の間に二人の人生はずいぶん変わった。デイヴィッドが書いた『The New Rules of Marketing and PR』は毎年改訂版が出るロングセラーになり、多くの大学や企業で教科書として使われるようになった。他にもウォール・ストリート・ジャーナル紙ベストセラーを何冊か出したデイヴィッドは、今では世界中を飛び回る売れっ子の講演者だ。ブライアンの変化はもっと著しい。
二人が出会った頃には社員が10人くらいしかいなかったハブスポット社は、2020年末には世界に約3500人の社員を持つ国際的な企業に成長した。2014年10月には念願のIPO(株式公開)を果たし、四半期ごとの発表ではターゲットを超える結果を出し続けている。株式公開の価格が25ドルだった株は、2021年7月7日には609.33ドルの最高値に達した。「最も働きやすい会社」や「社員からの評価が高いCEO」の常連トップでもある。