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「仕事さえちゃんとやれば、好きなときに、好きなだけ休暇を取ってよし」

 ブライアンがこのシステムを作ったのは、起業してすぐの頃だった。急ぎの重要なプロジェクトがあり、ある社員とメールをやりとりしながら週末ずっと働き続けた。

 その社員が月曜日に出勤してきて「フィラデルフィアに住んでいるガールフレンドに会いに行くので金曜日に有給休暇を取らせてくれ」とリクエストした。「オッケー」と快諾して書類にサインしかけたブライアンは、筆を止めて考えた。

 この若い社員は、会社に出勤こそしなかったが、週末ずっと自宅で働き続けたではないか。

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 自分を含めてモチベーションがある人は場所がどこであれ仕事をし続けるものだ。会社に身体を持ってくることだけを評価するような制度は馬鹿げている。

 そこで、ブライアンは「仕事さえちゃんとやれば、好きなときに、好きなだけ休暇を取ってよし」という規則を作った。

「そんなことをしたら会社がめちゃくちゃになってしまうではないか!」と心配する人がいるだろう。だが、ハブスポット社が雇うのは自分でモチベーションを持って働く優秀な人だけだ(前述の「雇う社員の選択には、とてもうるさい」という企業カルチャーにはそういう意味がある。ここに就職するのはとてもむずかしい)。彼らは誰かから命令されなくてもバケーション先でメールをチェックし、ネットで会議に参加し、プロジェクトを推し進める。

 いっぽうで、会社に来ていても、途中でマラソンのトレーニングのために抜け出し、会社に戻ってシャワーを浴びる人もいる(そのためのシャワールームも設備されている)。昼寝専用の部屋もいくつかあり、ブライアン自身が率先して毎日昼寝している。

「僕の父親の時代は午前9時から午後5時勤務で、いったん家に戻ったら仕事なんかしなかった。でも、現代人は、僕を含めて遊びと仕事が交じり合っていて綺麗に分けたりなんかできない。それを無視して昔のままのやり方を続けている企業は、優秀な人材を失っている」とブライアンは言う。

 ブライアンによると、現代の優秀な人材は、これまでネガティブなものとして語られてきた、ADHD(注意欠陥多動性障害)の特徴とされる傾向を持っている場合が多いらしい。

 モチベーションを与え続けないと飽きてしまい、別の会社に移ってしまう。だから優秀な社員を引き止める対策は重要なのだ。