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 もちろん時代背景の違いはある。ルースの時代は、アマからプロへの育成ルートなどなく、プロに入っても大金をもらえた訳ではない。なので、今ほどトレーニングに人生を捧げる技術の高い選手がしのぎを削ってはいなかった。ルースのように19試合に先発登板して、そのうち18度も完投するなんて、もはや有り得ない(2021年の最多完投数は3)。一人のスター選手が試合結果に与える影響は小さくなった。通算WARランキングの上位が昔の選手ばかりなのが、それを物語っている。

 1918年のメジャーリーガーを現代に連れてきても、そのままでは通用しないだろう。トレーニングの進歩で選手の運動能力や技術が上がったからだ。ルールや道具なども違うので、別競技とすら言えるかもしれない。なので、ベーブ・ルースと大谷が、なんの準備もなしに対戦するというのは、フェアな比較ではない。歴代ランキングの難しさ、面白さは、そこにある。

大谷とあまりに対照的なルースの「らしさ」

 だが少なくとも、WARやwRC+などの指標で測った場合、ルースは「野球の神様」と呼ぶにふさわしい。大谷が二刀流で新風を巻き起こしたように、ルースも当時では有り得なかった豪快なホームランをかっ飛ばして野球ファンの拡大に貢献した。今なお続く、「ホームランが主役の野球」はルースから始まったのだ。

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 ルースはESPNが2022年2月3日に配信した「歴代最高の野球選手100人」という記事でも堂々の1位に選ばれた。

「今日、私たちが目にしている野球は、ベーブ・ルースが作ったものだ」と記事は紹介した。「これまでインパクトのある選手が何人も出てきて、国民的英雄になった者もいる。しかし、(人気球団の)ヤンキースに加わって、野球を『パワーのスポーツ』に変えたルースほど影響力のあった選手はいない。ルースほど時代を圧倒した選手はいない」

 大谷がルースのキャリアに並ぶには、長い道のりが待っている。

 ちなみに、フィールド外でも豪快で有名だったルースは、1918年にも「らしさ」を発揮している。The Ringerの記事によると(2018年3月27日配信)、登板を嫌がり、監督と口論になって一瞬ながらチームを去っている。「怠け者と呼ばれたので、殴るぞと脅した」と記者に事情を説明した。さらには、ワールドシリーズの登板前日に、列車の扉をパンチして利き手を負傷したが、そのままマウンドに上がって白星を挙げた。スプリングトレーニングでは、他の選手なら怪我をしてしまうくらいのペースで練習に励んでいたというが、それも早く終えて競馬場に行くためだったのではないかと当時の記者が推測している。

 大谷とあまりに対照的で笑える。

記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。