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 だが、イルクーツク市は石川県で言えば金沢市クラスの人口規模で、当時の根上町と交流するには大きすぎた。そこで、サラッキー市長はイルクーツク近郊のアルヒーポワ・シェレホフ市長を紹介した。アルヒーポワ市長は、今に至るまでシェレホフでただ1人の女性市長だ。

友好交流の立役者、森茂喜・元根上町長とアルヒーポワ・シェレホフ市長がバイカル湖で船に乗っているところを描いた絵画。シェレホフ市から贈られた

 友好交流の歴史を研究している能美市国際交流協会のロシア人職員、ブシマキン・バジムさん(38)は「アルヒーポワ市長は笑顔が多い、おおらかな人でした。市の隅々まで歩き、働き者でもありました。その点、森元町長とは首長としてのタイプが似ていて、意気投合したようです」と話す。

市民同士の友好親善で何が変わるか?

 森元町長は多くの人にシェレホフ市を訪れてほしいと願ったようだ。

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「当時、ソ連は怖い国で、ロシア人も怖い人間だという印象を持たれていました。でも、森元町長が触れたロシア人は全く違っていました。『流布されている情報と、自分の目で見た現実は違う。だからこそ訪れ、触れ合い、自分で確かめるべきだ。誤った情報も戦争の原因の一つだ』と森元町長は考えたのです」と、ブシマキンさんは熱く語る。

 訪問団でシェレホフ市を訪れた人の中にも、認識を一変させる人がいた。「以前よりロシアの国に対し、あまり好意を持っていませんでしたが今回、シェレホフ市の皆様から受けた友情や厚意により一瞬にして変わってしまいました。市民同士の友好親善の大切さやありがたさを我が身を持って理解できたと思います」とする手記を能美シェレホフ親善協会の会報に寄せた人もいる。

 さらに、森元町長はシェレホフ市に学べるものは学ぼうとした。注目したのは、同市で手厚かった青少年・幼児教育や福祉行政だ。

シェレホフ市からの訪問団が来るたびに植樹する「友情の森」の看板。木がかなり劣化しているのが残念なところ

 ブシマキンさんは「旧根上町の保育園に初めてできたプールは、ロシアの施設を参考にして建設しました。保育園の子供用の洋式便所も向こうの保育園で研究しました。根上からの訪問団がびっくりするほど多くの写真を撮影して帰ったので、シェレホフ市の担当者を驚かせたほどでした。また、ロシアでは小さな村にも図書館があります。これも旧根上町で整備した時には下敷きにして考えたようです。一方のシェレホフ市側も、旧ソ連からロシアに変わった後、経済の仕組みや自治体の運営方法などを学びに来ました」と話す。

「共産主義のスパイではないか」と……

 こうして両自治体の交流は深まり、シェレホフ市は森元町長に名誉市民の称号を、旧根上町はアルヒーポワ市長に特別名誉町民の称号を贈った。

 だが、そうした森元町長の姿勢はなかなか理解されない面もあった。

「『赤い町長』と呼ばれることもありました。『共産主義のスパイではないか』という誤解もされました。実際の森元町長は信念を持った資本主義者でした。ただし、相手のいいところは国家体制が違ってもピックアップして持ち帰るべきだと戦略的に考えていたのです」とブシマキンさんは説明する。