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がん患者が「本当に読みたい記事」ってなんだろう?――「がん100人委員会」編集会議

2017/12/27
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 がんの治療中でも、患者としてではなく、一人の人間として自分らしい時間が過ごせて、それと同時に、医療的知識のある友人のような看護師・心理職員のサポートが受けられるマギーズ東京(江東区豊洲)。2016年10月にオープンしたこの場所では、何らかの形でがんに影響を受ける人たちが自由に訪れ、生きる力を取り戻しています。

 12月某日、このマギーズ東京で「がん患者が本当に欲しい情報が少ない」という声をもとに、がんを経験した方々が集まって本当に読みたい記事についてプランを出し合う編集会議が開催されました。コンテンツ化の実現を目指して繰り広げられた白熱の会議の様子を、取材しました。

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【会議の参加メンバー】

・吉川佑人さん
 大学卒業後、社会人3か月目で胃がんと診断され、胃を全摘出する。前の会社には1年間在籍した後、離職。抗がん剤の治療が功を奏し、昨年完治と診断される。書店アルバイトを経て、現在はIT系企業の正社員として勤務3年目。

・斉藤​直樹さん(仮名)
 サービス業で働く。昨年5月、健康診断で異常が見つかり、検査で慢性骨髄性白血病と診断される。一度休職したが、現在は週に何度かというパートタイムで職場復帰。分子標的薬による治療を継続中。

・鈴木美穂さん
 テレビ局の報道記者。24歳で乳がんのステージ3と診断される。手術、2種類の抗がん剤治療、放射線治療、ホルモン治療、分子標的薬治療という「標準治療のフルコース」を経験。8か月の休職後、職場復帰。病気になっても自分らしく生きられる社会の実現を目指し、マギーズ東京を設立。

・坂本恭子さん(仮名)
 昨年乳がんと診断され、手術を受ける。1年間休職し、先月職場に復帰した。看護師として、家事・育児・仕事に忙しい毎日を送っている。

・熊倉百音子(もとこ)さん

(株)クオリティ・アンド・バリュー代表取締役。9年前、アーリーステージでの子宮体がんが見つかり、全摘出を宣告されたものの、取らずに寛解。昨年再発が見つかり、手術を受ける。現在は寛解し、仕事をしながら立教大学の社会人大学院に通う。がん体験を基に修士論文をまとめる予定。

・岩城典子さん
 実務経験二十数年のベテラン看護師。ホスピスのある病院での勤務経験を生かし、在宅支援診療所で経験を重ねる。現在は、マギーズ東京の常勤看護師として働く。多くの来訪者たちから大きな信頼を得ている。

顔の見えない情報じゃなくて、顔が見える具体的な事例を知りたい

――今日は皆さん自身が「読みたい記事」を考える編集会議ということで、どんな案が出るのか楽しみです。よろしくお願いします。

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斉藤 今の時代って、情報的には恵まれていると思います。でも、治療法や治療経過の情報はあっても、副作用のマイナス情報みたいなのは、ないんですよね。僕の場合、薬を飲み始めてすぐひどい筋肉痛みたいになって、足がまったく動かない状態が1か月くらい続いたことがあるんです……。不安になって医者に聞いたら「長い目で見ましょう」みたいなこと言われて。周囲に相談したり、話を共有できる人もいなかったから、「みんなの副作用体験」とかがあったら読みたいです。

斉藤直樹さん(仮名、写真手前)

鈴木 そう、治療法などの情報は結構あるんですよね。私が乳がんになった約10年前はもっと孤独で、自分と同じ状態の人や、同じ治療を受けている同世代の仲間に会いたいというのは、すごくありました。顔の見えない情報じゃなくて、顔が見える具体的な事例。『STAND UP!!』という「35歳以下でがんに罹患した人のための患者会」を立ち上げ、フリーペーパーを作ったのは、自分がそういう情報が欲しかったからです。

吉川 鈴木さんとのご縁は、『STAND UP!!』がきっかけですよね。このフリーペーパー、誰がどこから見ても怖くない情報だけが載っていて、それって結構大事なんですよ。今、斉藤さんが言ったように、情報がたくさんありすぎるんで、ネガティブな情報もたくさん見つかるんです。僕の場合「胃がん」って入力すると、予測変換で悪い言葉がバーッと出てきて、それだけで落ち込んだり。だからネット見ないように、Twitterのアカウントとかも削除して、友だちも減り、ますます暗い気持ちになる……みたいな。

左から、吉川佑人さんと鈴木美穂さん