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「こういうとこに残ってる人は、もう終わってんな」西成の日雇い労働者が無料ホームレスシェルターで体感した“リアルな心情”とは

『人生、しばしばホームレス』より #2

genre : エンタメ, 読書

note

慣れてしまうと居心地がよくなってしまう

 そういう被害というかそういうイヤなこともあったし、裸でも歩いとるようなおっさんもおったし、やっぱり劣悪な環境やった。

 奇声発したり、訳の分からん独りごと言うてみたりしてるのもおったかな。そんなん見ると、「こういう環境の中でも、一番ヤバイレベルの人なんやな」っていうのはやっぱり思ってた。

 ただ、それでも、西成ではそこしか寝るとこなかったから、仕事してない時はそこで寝泊りはしてた。

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 住めば都というのもおかしいけど、慣れてしまうと居心地がよくなってしまうというか、慣れるまではもちろんイヤやし、慣れても汚い環境というのは変わらんから、なんも好転しないけど、その環境に適応できたら、それはそれで居心地がいいというか、「もうここでええわ」っていう感じになるんかな。

火事やっ!! これヤバイ!!

 27歳ぐらいん時に行った契約は、寝タバコかなんかで火事起こした奴がおった。木造の2階で寝てたけど、深夜1時頃になんか騒がしなったから、「なんでこんな時間に騒いでんねん!?」って思って、窓の外を覗いたら、隣の隣ぐらいから火が出てて、下におった人間が、騒いどった。

「火事や!! 火事やっ!!」

「これヤバイ!! とにかく外に出なあかんわ!」と思った。

 逃げてる奴もようけおって、すぐ火出よったぐらいやったから、切羽詰まって2階の窓から着の身着のままでパッと脱出した。

 ほんとになんとなしに窓開けただけやったから、焼け死んどったかもしれんし、普通の窓やったから逃げれたけど、強盗防止みたいな窓やったらとっくに死んでたやろうから、そういう意味では「普通の窓やってよかったわ」思った。

 1人、その火事で亡くなられた。

 寝タバコしてたおっさんは逃げたみたいやけど、夜中にウロウロしてたのが怪しいいうことで捕まって、会社の人に怒られてた。

 会社の人間に話聞くなりなんなりしたら、

「火災保険入ってないから、弁償ができへん」

 そんな話を聞いて、「こんなとこおってもヤバイ!」って思った。

 お金もらえるかどうかも分からんし、そんな火事起こしてもうてるから、どこで寝ないかんかとか、事故の後処理とかそんなん色々めんどくさくなった。

 その飯場で知り合った同学年ぐらいのお兄ちゃんが、

「こんなとこおってもあかんし、西成に戻りましょう。西成戻ったら、一緒に仕事しましょう」

 言うて、2人で西成に帰った。

【前編を読む】「ここおったらヤバイかも!?」「ああ、もう無理や」…家出して大阪・西成に辿り着いた20代男性が現場仕事を飛び続けた“驚きの言い分”

人生、しばしばホームレス

中川波佳 ,かっちゃん

さくら舎

2022年5月11日 発売

「こういうとこに残ってる人は、もう終わってんな」西成の日雇い労働者が無料ホームレスシェルターで体感した“リアルな心情”とは

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