ほぼ同じ治療をしているのに、負担は4分の1以下に
しかし、である。自費診療の時は採卵までの1ターンで約45万円の費用がかかった。対して、保険診療になったら1ターンでかかったのは、約10万円だった。ほぼ同じ治療をしているのに、負担は4分の1以下になった。
負担が減ってありがたいと思った反面、もう一方で湧いてきたのはどこか釈然としない気持ちだった。
たしかに10万円も大金ではあるが、頑張れば払える金額ではある。
それこそ6年前に一度、お金が理由で不妊治療をやめた私にも払える金額だと思った。なんで、もっと早く保険適用にしてくれなかったのか。保険適用になっていたら、まだ若かった頃に、なんだったら最初に不妊治療を始めた時よりももっと早く取り組めていたかもしれない。
私はまだギリギリ40歳で保険適用を受けられたが、お金を理由に諦めた人や、もう43歳を超えてしまった人だってたくさんいただろう。「少子化が問題だ」と国はずっと言っているが、そんなのはずっと前からわかっていたことだ。
「不妊治療をしている」周りに言いづらい空気
そしてもうひとつ。
不妊治療に取り組んで感じたことは、「不妊治療をしている」と周りにすごく言いづらい空気があるということだ。しかも、治療をしているというと、「ものすごく子供が欲しい人」のように見られてしまう。私はこれもすごく嫌だった。
本来なら「子供が欲しいかはわからないけれど、普通に過ごしているだけではできないからとりあえずやってみたい」というくらいの気持ちで、気軽に取り組めるようにならないと、治療に取り組む人も増えないし、子供も増えないと思うのだ。
また、想像以上に女性の肉体的・精神的負担が大きいということも実体験できた。生理の周期などに合わせて急に「明日、病院に来れますか?」などと言われるので、正直なところ予定が立てられない。コロナ禍の影響で在宅勤務が増え、少しはマシになったが、それでも相手がいる仕事では自分の都合で何度も予定を変更してもらうのは難しい。
そして「やっても成果が出ない」という徒労感。お金も労力もかけて、無駄でしたとなった時の精神的ダメージ、それが何度も重なると本当に心が折れそうになる。
今回の保険適用範囲の拡大を機に、もっと不妊治療が一般的なものになり、完全に理解とまではいかないまでも「知る」人がもっと増えてほしい。今はそんな風に思っている。