2022年3月3日、91歳でこの世を去った作家・西村京太郎。「十津川警部」シリーズで親しまれ、鉄道ミステリーの第一人者としてヒット作品を次々と書き上げた同氏の軌跡は、『西村京太郎の推理世界』(文春ムック)にまとめられている。

 ここでは、「オール讀物」2013年7月号に掲載された西村京太郎のインタビューを抜粋して紹介する。オール讀物推理小説新人賞でデビュー以来、作品数が500冊を超えた西村氏。インタビュアーとなった文芸評論家の山前譲氏を前に、これまでに旅した懐かしい鉄道風景と取材秘話を語りつくした。(全5回の4回目/5回目に続く

「著作500冊を祝う会」(2012)でテレビドラマ出演者の皆さんと奥さまと ©文藝春秋

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推理小説を書くのは簡単だと思っていたけど、簡単じゃなかった

 トラベル・ミステリーで多くの読者を魅了している西村京太郎氏が、「歪んだ朝」でオール讀物推理小説新人賞を受賞してから50年、そして十津川警部初登場から40年と、2013年は記念すべき年である。

 1930年9月6日、東京に生まれた西村氏は、旧制府立電機工業学校から、競争率100倍の試験に合格して東京陸軍幼年学校に進んだ。終戦で電機工業学校に復学し、卒業後は臨時人事委員会――現在の人事院で、新しい公務員制度を作る仕事に携わる。

 しかし、1960年3月、30歳を目前に人事院を辞めた。作家を志したからだった。

 推理小説を書くのは簡単だと思ったんです。ところがやっぱり簡単じゃなかった(笑)。「オール讀物」の推理小説新人賞をいただいたのは、32歳の時です。面白いですね、「凶徒」で同時受賞した野上竜さんも同い年でした。

 授賞式はなくて、文藝春秋の会議室で、「オール讀物推理小説新人賞」と名前を裏に刻んだスイス製の時計をもらって、それで終わりなんです(笑)。ただ、一冊、長編を書かせてもらえて、それが最初の長編『四つの終止符』(1964)でした。でも、長編で賞を取らないといけないと思って、江戸川乱歩賞には応募しつづけました。

 翌年、『天使の傷痕(しようこん)』で江戸川乱歩賞を受賞することができたんですが、本は思ったように売れません。そこで文章をあらためて勉強しようと、「文藝首都」や「大衆文芸」といった同人誌に参加しました。

「文藝首都」の合評会に出席すると、中上健次さんや勝目梓さんがいました。それで、同人誌に掲載された作品を、厳しく批評していくんです。僕は同人ではなくて会員だから、作品は発表していなかった。でも、何か意見がありますかと聞かれたので、他の人の真似をして批評したら、同人じゃないのになんだ、って怒られた(笑)。

 長谷川伸さんの門下生がやっていた「大衆文芸」は、山岡荘八さんとか村上元三さんが中心でした。同人になりたいと言ったら、20枚の短編を書いてきなさいと。

 その原稿を自分で読むんです、みんながいる前で。もうどんな内容だったか憶えていませんが、下手だとか、回りくどいとか、なんだかんだぼろくそに言われた(笑)。

 でも、入れてくれましたよ、若手もいなくてはいけないというので。ずいぶん「大衆文芸」には書きました。もちろん原稿料なんかありません。