「ウルトラマンという存在が地球人に干渉すること自体が脅威となる。『シン・ウルトラマン』ではこれまでのウルトラマンのテーマを踏襲しつつ、その先に踏み込んだ意欲作だと思います。初代ウルトラマンへのオマージュが多いのは確かですが、庵野秀明さんや樋口真嗣監督が自分たちの作品として作り直しているので、初代を知らなくても十分楽しめる作品です。それでも、過去のシリーズを知っていると、作品の背景を考えたり続編の予想ができてより楽しめます」
特撮ジャンルに詳しい評論家の切通理作さんは『シン・ウルトラマン』の感想をこう語った。
5月13日に公開された『シン・ウルトラマン』は公開3日間で9.9億円の興行収入をたたき出した。これは2016年に公開され社会現象を巻き起こした『シン・ゴジラ』の初日3日間の約120%の数字というロケットスタートだ。
称賛の声がある一方で、「ウルトラマンをあまり知らないのでいまいち乗れなかった」「『シン・ゴジラ』のようなものを期待したら思っていたのと違った」という声も散見される。
そこで、『怪獣使いと少年 ウルトラマンの作家たち』を始めウルトラマンに関する多くの著書を書いている切通さんに「『シン・ウルトラマン』を100倍楽しめる作品トップ10」を選んでもらった。
※以下は『シン・ウルトラマン』のネタバレを含みますのでご注意ください
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「個人の被害を防ぐのか、大きな敵を優先するのか」
第10位『帰ってきたウルトラマン マットアロー1号発信命令』(1983年)
ファンには有名ではあるが、庵野秀明氏は学生時代にウルトラマンの同人映画を撮影している。日本に突如現れた怪獣を倒すのに核兵器を使うことが決まるが、5000人以上の市民を犠牲にすることになってしまう。庵野氏本人演じる主人公がそれを阻止すべくウルトラマンに変身、怪獣と戦う、というあらすじだ。
「『シン・ウルトラマン』では主人公の神永が山に取り残された少年を発見して救助に向かうシーンがあります。このシーンで『個人の被害を防ぐのか、大きな敵を優先するのか』という庵野版の問いかけを思い出しました。実際は西島秀俊さん演じる禍特対の田村班長が『行ってこい』と許可してしまうので葛藤も何もないのですが、『シン・ウルトラマン』の原点としてこの同人版はおすすめしたいですね。
ちなみに、本家の『帰ってきたウルトラマン』は怪獣から少年を守ろうとして死んだ主人公にウルトラマンが感銘を受けて合体するという設定。そこは『シン・ウルトラマン』と通じていますね」
過去に何度かDVDになっている作品ではあるが、今では入手するのが困難。本作のDVD特典に入ることを期待したい。