治療を終え、「寛解」と言われた時の気持ち
夢枕 僕も人間ドックで早期発見できたのはよかった。20年12月に精密検査が必要だと言われて、それは年末進行の締め切りがあるから絶対に無理。年明けに検査したら、肺の付近に何かあるんだけれど、動脈と心臓が邪魔で、針を入れて細胞組織を採れない。もっと大きな病院で検査することになって、気管支から針を入れて悪性リンパ腫だと判明しました。
あとは肺に水を溜めてそこにがん細胞があるかどうかという検査もしたけれど、まあ苦しい。生まれて初めてギブアップのポーズを出しましたよ。
北方 それを聞くと、俺は楽だったと思う。モニターを見ながら、「きれいに(がんが)取れましたね」なんて言われるのを痛みなく聞いてた。
夢枕 船の上でがんのことを話した時、ご自身で何を言ったか覚えてますか?
北方 俺が?
夢枕 餌を付けながら、こともなげに「(がん手術が成功したのは)もうちょっと小説を書け、と言われたっていうことだな」って。
北方 たぶんこの発言の主語には「小説の神様が」があったと思う。
夢枕 それで釣りに突入(笑)。でも治療を終えて「寛解(かんかい)」と言われた時には、僕もまったく同じ気持ちでした。神様に「もうちょっと仕事をしろ」って言われた感じです。
がんも脊柱管狭窄症も先を越された(笑)
北方 実はこの2年間で、俺は4回入院していて結構な数でしょう。1回目の手術で膀胱がんはきれいに取れたはずだったのに、CTスキャン撮影をしたら、ちょっと心配なところがあって、そこを削ったのが2回目の手術。その次は腰が抜けちゃって……。
夢枕 腰は別に理由があったんじゃないですか(笑)。
北方 いきなりじゃなく、ずっと脊柱管狭窄症(せきちゅうかんきょうさくしょう)に苦しめられてた。
夢枕 僕も同じで今度、手術することになっているんです。
北方 本人にしか分からないけど、脊柱管狭窄症は普通に歩いていても200メートルくらい進むと、耐えられなくてしゃがみこむしかない。