北方 確かに。手術直後にも看護師さんが来て、身体を拭くから服を脱ぐように言われたから、「どこを拭くんだ?」って聞いたら、「全身です」って。もちろん俺は自分でやると言い張って、全部自分でやったよ。
夢枕 僕もそうです。ここしか貯めた小金を使う機会はないだろうと思って、シャワーのある個室にしてもらい、点滴の管にあれこれ注意しながら自力で洗いました。
北方 俺は手術だったから風呂は無理だけど、やっぱり個室に入れたから、素っ裸になって石鹸の泡を身体中に塗って自分でゴシゴシ拭いた。
夢枕 ああ、脊柱管狭窄症も何もかも先を越されている(笑)。
北方 膀胱がんの手術は短期間の入院で済んだけど、腰の手術の時は10日間以上入院していたので、どうしても締め切りが来たんだよ。
夢枕 どうしたんですか?
北方 画板に原稿用紙を貼って、寝ながらの状態で書きました。
夢枕 書きますよね。
北方 万年筆だとインクが出ないから鉛筆で書くしかない。まあシャープペンだけど、それで書いた生原稿が300枚くらいある。
夢枕 僕もちょっと量は減ったけれど、基本やりましたよ。
北方 やるよな。だって他にやることがないし。
水をガバガバ飲んでいたら抗がん剤が…
夢枕 右手で書くんで点滴は全部左手にしてもらっていたら、左手の血管が割り箸みたいに硬くなっちゃった。右手にも点滴を入れさせてほしいと言われて困っています。
北方 膀胱がんの時は抗がん剤を患部に何日か入れていたわけで、それを看護師さんが診にくる。
夢枕 それは嫌かも(笑)。
北方 嫌だよ。出来るだけ尿をしろと言われているから、水をガバガバ飲んでいたら、ある時、抗がん剤を入れたばかりなのに「我慢ができない」感じになって……。
夢枕 入れた抗がん剤を出しちゃった!?(笑)
(初出:オール讀物2022年1月号、撮影:志水隆/文藝春秋)