北方 今書いている『チンギス紀』も長いけど、『水滸伝』なんか51巻続いたから何度泣いたか……。ただ、本当は短編を書きたい気持ちも常に持っています。
夢枕 僕は『陰陽師』を短編で書いていますが、また新しい短編を書きたい気持ちがありますね。
北方 俺が短編を書く動機は、1回15枚のものを3本くらい続けて書くと、長編を書く時も文体がキュッと締まるからなんだよね。
時々、自分にしか分からない挑戦をしたくなる
夢枕 15枚っていうのはかなりシビアな枚数じゃないですか。
北方 しんどい、しんどい。きちんと15枚で書くためには言葉を選ばなくちゃならなくて、長い小説だったら3つくらい書いてしまうことが、実はその中の1つしか必要ないことに気が付く。俺は長編を書いている最中に自分の中の女々しさを感じるんだけど、15枚の短編を書くというのは、男らしい作業だと思うよ。
夢枕 僕はいちばん短い小説として俳句を書こうと思っているんです。短歌のように五七五に七七が付いちゃうと、結構いろんなものが入れられちゃうけど、五七五のシビアな世界でやることが楽しい。
北方 自分でも楽しいのか苦しいのか判断できないけど、表現というものにかかわっていると、時々こういう自分にしか分からない挑戦をしたくなる。常にどこかで磨かなければならない、研がなければならないという気持ちがあるんだよな。
「お金のため」でなく「ビョーキ」だから書いている
夢枕 何だかずっとエンタテイメントをやってきたけど、僕らは若い頃の文学青年の尻尾をいまだに引きずっているようなところがありますよね。世間を見回してみて、そういう欲望を持っている人っていますか?
北方 今の若い作家にはいないかもしれない。小説を書く、表現するということを全然違うところでやろうとしているんじゃないかな。
夢枕 それはそれで面白いものはいっぱいありますけどね。
北方 俺らは今まで書いてきたやり方でしか書けないわけだから。