夢枕 下手に真似をするよりも、今まで好きなようにやってきたスタイルを貫くしかない。もう小金が溜まったので、別に原稿を書かなくても生きていくだけなら大丈夫でしょう。でも、それじゃあ生きていてつまらない。要するに今書いているのはお金を儲けるためじゃなく、ビョーキだから書いている。
SFの世界で勝負するために10年欲しい
北方 贅沢をするために稼ぎたいという気持ちがエネルギーになって書いていた時期もあったけど、正直、もうそれは燃料にはならない。やっぱり、誰が見たってどうしようもなく好きだから書いているんだな。
夢枕 僕はまだハードSFに未練があって、死ぬまでにそれをどうしても書き上げたいんですよ。
北方 山の小説も釣りの小説も書いた。獏ちゃんなら書けるでしょう。
夢枕 いや、『三体』というすごいSFが登場しちゃってね。あれを読んだら、書く以上はこれを超えなきゃだめだと思ってハードルが余計に上がりました。今やっている連載を全部終えるのにあと10年、SFの世界で勝負するためにさらに10年欲しいですね。
北方 俺が書いている『チンギス紀』はあと2年くらいで完結で、続きを書いたらフビライの蒙古襲来になる。どこまで行くか分からないけど。
夢枕 寿命の限り最後は中国の文化大革命まで書いてくださいよ。
(初出:オール讀物2022年1月号、撮影:志水隆/文藝春秋)
きたかたけんぞう 1947年佐賀県生まれ。83年『眠りなき夜』で吉川英治文学新人賞、91年『破軍の星』で柴田錬三郎賞、2004年『楊家将』で吉川英治文学賞、16年菊池寛賞、20年旭日小綬章受章ほか、著書・受賞多数。
ゆめまくらばく 1951年神奈川県生まれ。77年作家デビュー、以後多くのシリーズを発表。98年『神々の山嶺』で柴田錬三郎賞、2011年『大江戸釣客伝』で泉鏡花文学賞、舟橋聖一文学賞、翌年吉川英治文学賞を受賞。