1ページ目から読む
2/4ページ目

北方 人間のエネルギーってそんなものなんじゃないかな。忙しい時ほど仕事もするし、遊びもする。今は締め切りのギリギリまでK–1のノックアウトシーンの動画を延々と観ている。結果も展開も分かっているのに観ずにはいられない。

夢枕 感覚的にあと何分、これが迫っているからもう駄目だというギリギリまで粘りますよね(笑)。

潜在能力を最大限活かすために

北方 これだけ長く書いていると、体感として150枚が身に染みている。もう駄目だと思っても、夢中になって書いているとデッドラインの30分前に完成するんだよ。

ADVERTISEMENT

夢枕 あれ、不思議ですね。一度書けちゃうと、それを身体が覚えているから「あとこのくらいは大丈夫」ってサボっちゃう……いやサボっているわけじゃなくて、編集者に「すみません」、自分自身に「俺はなんて心が弱い男だろう」と思いながら、「ああもう辛抱たまらん!」っていうところまで待ってから、一気に書き出したほうがむしろ早い。

北方 最終的には自己嫌悪だよね。何で毎月こうなるのかとは思う。

「『ああもう辛抱たまらん!』っていうところまで待ってから、一気に書き出したほうがむしろ早い」

夢枕 一生直らないですよね。

北方 最近では連載が始まる時には、すでに書き終えているなんていう若手もいるけど、締め切り前のプレッシャーがかかってないと俺は駄目だと思う。人間は普段持ち上がらないものが火事場の馬鹿力で持ち上げられる時がある。その潜在能力を最大限活かすためにも、俺はK–1の派手なノックアウト場面を観ている。あの時間が大事なんだよ(笑)。

今も文学青年の尻尾が

夢枕 自分で原稿を書いていて泣くことってあります?

北方 俺は泣き虫だって大沢(在昌)にも言われるけど、心を動かされることがあるとすぐ泣いちゃう。だから原稿を書きながらも泣く。特に長く書いていると「死ぬなよ、死ぬなよ」と思っている登場人物が死ぬわけで、その時に「どうしよう、死んじまった」とボタボタ涙を流して泣きます。

夢枕 泣きますよね。その話を女性作家の方の前でしたら、逆に「えっ、泣くの?」と驚かれてしまったことがあるんです。