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――確かに日本はアメリカ第一の度合いが強いです。

マライ そうですよね。ドイツも軍事的にはNATO、つまりアメリカに頼って軍事費をずっとケチってきた部分はあるんですが、“EUの盟主”としてアメリカとは一定の距離をおきたい、みたいな願望も強い。あと、今回の戦争についての報道で日本と大きく違うのは「お金」の話です。

ドイツの国会で演説したウクライナのゼレンスキー大統領 ©時事通信社

「これを自分たちの税金で復興するんだよなぁ」

――戦費や軍事費のような話ですか?

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マライ それももちろんですけど、ウクライナの被害状況を見て「これを自分たちの税金で復興するんだよなぁ」と思っているのはたぶん世界中でドイツ人くらいだと思うんです。ドイツは経済的にEUで1人勝ち状態なので、ヨーロッパで何かあったら自分たちが支援するんだという意識をはっきり持っています。今回も武器の提供などですでに相当なお金がかかっていますが、戦闘が終わったとしても、復興支援でドイツにさらなる支出が待っているのは間違いありません。

ウクライナの被害は極めて大きい 撮影・宮嶋茂樹

――確かに、「日本の税金が使われる」という感覚を持っている日本人は多くなさそうです。自分たちの税金が使われることへの反発はないんですか?

マライ ドイツ人は、自分たちが経済的に好調なのはEU諸国から流れ込んでくる優秀な人材のおかげだとわかっているので、ヨーロッパの国を支援すること自体は納得している人が多いです。ギリシャの財政破綻の時も、結構なお金をはらっていますし。ただ、タイミングが厳しいなぁという感覚は正直あるでしょうね。

――タイミングとはどういうことでしょう。

マライ 今年はドイツにとって、古くなった国内インフラをいよいよ一気に整えるぞという年だったんです。16年続いたメルケル体制が終わって、後を継いだショルツ首相が内閣を「内政向き」のメンバーで揃えたのもそのためでした。というのもドイツは長年のケチ政策で、国内のインフラが実はボロボロ。特にインターネット周りは本当にひどくて、電子マネーやクレジットカードを使える店が他国とくらべても少なく、ネットの回線速度もかなり遅いんです。

――ドイツといえば成功している先進国の代表のようなイメージで、それは意外です。

マライ ドイツのネット周りの整備が遅れているのは国内ではネタになるくらい長年の課題で、ようやくそれを解決するための布陣が整った直後に、この戦争が起きてしまった。政府は内政特化チームなのに、戦争という究極の外交問題に対応しなければいけないというハードな状況だったんです。