日本のモスク、急激に増加中
近年、モスクは日本で急速に増加している。試しにGoogle Mapsで、モスクを意味する「Masjid」を検索すると、北は北海道の小樽市や江別市から南は沖縄本島の西原町までの全国各地に、赤地に星と三日月のイスラム教のマークが見つかる。
『朝日新聞』によると、全国のモスク数は2021年10月時点で113施設だ。かつて2011年時点では70施設(文化庁文化部宗務課『宗務時報』No.119)だったのと比べると、ほぼ10年で約1.6倍増、40施設以上も増加したことになる。在日外国人の全体人数も約1.6倍増なので、完全に連動して増えている。
なかでも興味深いのが中京都市圏だ。上の画像からもわかるように、まずモスク自体の数が多い。また、首都圏のモスクが23区内に集中し、京阪神圏も大阪・京都の主要部に多いのに対して、中京圏では名古屋市内のモスクは2施設ほど。あとは、小牧市・豊田市・安城市など愛知県内の地方都市のほか、岐阜県の岐阜市・大垣市・各務原市、三重県の鈴鹿市・津市など、広い意味での名古屋の衛星都市や周辺都市に広がっている。
都会の場合、雑居ビルの一室などを借りるときもある。だが、土地が広い地方の場合、パチンコ屋や倉庫・民家などが建物まるごと“居抜き”でモスクになることもままある。改装費用が十分に調達できなかったり、近隣への配慮から“イスラム教っぽい”外装を自粛したりした場合に、元来の外観的特徴を残して開設される事例も出てくる。
土岐モスクは、こうして生まれた変てこなモスクのなかでも、外見上は完璧な「ただの民家」という、突出してキャラ立ちした外観だった。私はGoogle Mapsでたまたま彼らの外観を見たところ、そのあまりの異次元ぶりに惚れ込んでしまい、現場を取材することにしたのである。
日本にいるスリランカ人はイスラム教徒が多い
「ここに来るのは、ほとんどがスリランカ人。あと、インドネシア人がちょっといます」
礼拝を終えたレフカンさんは、英語と日本語のチャンポンでそう話した。土岐市にはスリランカ人が多く、地域に40人くらいいるという。親戚や友人のつてで自然と集まったようだ。技能実習生などの非熟練労働者が多いインドネシア人に対して、スリランカ人は自動車の貿易業を営む人も多い。
スリランカは国民人口約2140万人のうち7割ほどが仏教徒で、イスラム教徒は9.71%(2011年)ほど。しかし、日本にいるスリランカ人はイスラム教徒の比率が高いとみられ、土岐市の約40人のスリランカ人たちの多くもそうだ。
理由は、いわゆる民族問題に近い事情である。スリランカは、かつて多数派のシンハラ人と少数派のタミル人の間で長らく内戦が続いた国だが、第3のグループとして「ムーア人」(ムスリム人)と呼ばれるイスラム教徒たちも存在する。ムーア人はタミル勢力の過激派から、事実上の民族浄化を受ける立場だったので、迫害から逃れるべく海外に向かう人が多く出た。
「実は私も難民なのです。日本に来てから、ずっと難民申請中の身で、今日も名古屋入管に行って話をしてきた。ただ、私が出国した理由は民族問題じゃなくて、別の事情ですが……」
レフカンさんはそんな話をはじめた。元工場の礼拝所から、母屋の1階のミーティングルームに移動して話を聞いてみることにしよう。イスラム教徒が好むデーツ(ナツメヤシ)の砂糖漬けを振る舞われつつ、耳を傾けた。