見逃し三振が平気でできるようになればワンランク上がる
その後も岡田にだけそっと伝えたくなるような金言が続いた。ベッドの上では打席での球の待ち方という点でも頭が改革され、量産につながった、と。
「とにかく打てる球を打つ、と考え方がシンプルになった。ほとんどのバッターは苦手なコース、難しい球を打とうと練習するけど、そっちやなくて、これまで打ちにいってミスショットした甘い球を確実にとらえる。そっちの頭に完全に切り替わったんや。だから真ん中周辺の球をいかにミスせんと打つか、ここを極めていく中で40本を突破出来るようになった」
さらに真ん中周辺を狙うとなれば、1打席に1球、時には1試合に1球、そこへ来た時は絶対逃してはいけない、と力を込めた。
「俺にそんな甘い球は滅多に来ない。だからこそ、来た時には絶対キャッチャーへ通過させたらアカン、全部放り込むつもりでいっとった。毎打席鳥肌が立つくらい集中せなアカンから家に帰ったら常にフラフラやったけどな。その点、今の選手は絶好球をミスショットしてもネクスト、ネクストとやってる気がして仕方がない。この1球を打ち損じたらその打席は終わる、場合によってはその試合も終わる、そういう覚悟をどこまで持って打席に立ってるか。逆にミスしても、まだもう1回甘い球が来ると思うてるとしたら、自分はまだそこまでのバッターと思われてない、と考えてるんやないかと思うんや。“彼”なんかも俺のパワーはその気になったら村上(宗隆)と同じくらいはあるんだぜ、っていう気持ちを持っとるんかどうか。それだけ飛ばせるのに、自分の力をどうも信用してない、そんな気もするんや」
飛距離に関しては飛ぶ鳥を落とす勢いのアーチスト村上との比較であっても、むしろ……、である。
「甘い球が一切来ない時でも打てないボールには手を出さない。この覚悟もいる。難しい球に手を出すとたとえそこでヒットが出ても形が崩れて次からがおかしくなる。1回そういうスイングをしてしまったら不調の入り口に立たされる、崩れる怖さを常に持って打席に入らなあかん。だから、もちろん場面にはよるけど、見逃し三振が平気でできるようになったら打者としてワンランク上がるっていうのも俺の理論や」
岡田がもし、ホームランできるボールだけをひたすら待ち、コーナーへ決められたボールには現役時の門田のようにクルっと踵を返し、潔くベンチへ帰る。そんな姿を見せるようになれば……。僕の中では40発のイメージがごくごく普通に湧いて広がった。
「ここからやないか」――岡田への期待はまだ続いている
2度目のおかわりのお茶を飲みほした門田さんが「今日はえらい熱心やな。岡田のファンになったんか?」と笑いながら聞いてきた。「いえいえ、僕はゴジラの時からファンですから」と返すと、ゴジラ? なんでゴジラや?という顔になり、「よっしゃ、撤収しようか」の一言でこの日はお開きとなった。
岡田にはあと10年楽しませてほしい。そうすれば門田さんの引退時の44歳にも並ぶ。ナニワのゴジラが44歳。書いているだけでしみじみとしてくるが、こちらはその頃には還暦を超え、門田さんは84歳。「もうこの世におるかいな。そろそろや」と最近の口癖がついてきたが、門田さんと岡田を語る日々がまだまだ続いてもらうためにも岡田の爆発だ。
「170センチの俺がアキレス腱をやったのが30で1キロのバット振って40歳で40発。ここからやないか」
門田さんは固定観念をぶち壊し40歳で40発。不惑の大砲とも呼ばれ、世のおじさんたちからも大いに喝采を浴びたが、今の時代に、30半ばから息を吹き返しての本格化にもロマンがある。レジェンドの叱咤、ライターの願い。岡田貴弘への期待はまだまだ続いている。
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