さらには、6月3日に厚生労働省から発表された2021年の日本の合計特殊出生率は1.30と戦後4番目に低い数字となり、国立社会保障人口問題研究所の人口推計よりも6年早く少子化が進んでいるという衝撃的な数字となりました。もっとも、これらはコロナ要因で一時的に出生数が減ったためと見られますが、出産適齢期の女性が結婚しない・できない社会状況で公教育にカネを出せと言っても、なかなか厳しい情勢であることには変わりありません。
日本の義務教育は小学校から中学校にかけてですが、大多数が高校に進学する一方で、大学に進学する割合が相対的に低く見え、また、高等教育である大学院への進学率は特に低く、社会における修士・博士の割合が低くなっているように感じられます。教育だけでなく研究投資が全体的に低迷しており、これが結果的に基礎研究から産業応用までの全般での知的生産の水準を下げてしまっているので問題だ、というロジックになります。
でも、それ本当にそうなんですかね。
「日本ではイノベーションを引っ張る世界的大企業が存在しない」と言われるが
よく「日本ではGoogleやAppleのような、イノベーションを引っ張る世界的大企業が存在しない」ので、イノベーションが盛んではないし、操業率も低いと国内では議論になります。その一因として日本の教育システムが悪く、馬鹿みたいに厳しい校則で生徒を縛り、創意工夫や自発的な考えを持たない画一的な日本人を作ってしまうからだ、というストーリーが信じられやすいわけです。もちろん、ブラック校則が批判的な議論になったり、旭川での残念ないじめ事件でもあるように教育委員会が事態を隠蔽したり、さまざまな問題を起こしていることも確かではあります。
しかしながら、イノベーションを担う世界的大企業の卵である「ユニコーン企業」がどこに生まれているかを考えれば、何となくの結論は見えるのではないかと思います。2021年度時点で、企業評価額10億ドル以上の非上場ベンチャー企業を意味するユニコーン企業は、確かに日本は少ないといえども、その半数をアメリカが占めています。アメリカと中国で7割、次いでインド(5%)、イギリス(4%)、イスラエル(2%)と続きます。
「教育水準が低くイノベーションが足りないので日本からは世界的大企業が生まれない」というよりは、経済構造として、大規模な資金調達ができるアメリカなど英語圏諸国、そして国策として大企業を生み出そうとする中国・インドがこれらの大企業狙いの産業育成を至上命題としているのです。そこから外れる国は、日本もフランスもドイツもイタリアも、たいした評価額を持つ企業を送り出せていないことになります。
明らかに金融制度や高度知識を持った人物・企業に対して社会的に抱擁するような仕組みを持っていないから、国際的競争力のある会社はアメリカで起業したりアメリカに本社を移したりアメリカに技術を売ったりアメリカで上場したりするという話ですから、イノーベーションは必ずしも関係なく、日本の教育のせいにするのは可哀想です。