1ページ目から読む
3/4ページ目

1人の精子から150人の子どもが誕生

 もし、精子バンクで購入した精子によるセルフ人工授精で出産する女性がどんどん出現することになったとして、少々気がかりなことがある。

 ひとつは、精子ドナーが匿名でも本当に大丈夫なのかという不安だ。

 2011年、アメリカでは1人の精子ドナーの精子により各地で子どもが生まれ、その数が150人になったというショッキングなニュースがあった。つまり、150人の異母きょうだいだ。今年8月にはオランダで1人の精子ドナーから102人の子どもが生まれた疑いがあることが報じられている。

ADVERTISEMENT

 精子ドナーが匿名では、子どもは自分の生物学的父親が誰であるかを知らない。そのために将来、血のつながった男女が出会ってしまい、許されぬ仲と知らずに結ばれるというメロドラマ的展開が起こりかねないではないか。

 こういった近親相姦のリスクを極力下げるために、日本では日本産科婦人科学会が、提供精子を用いた人工授精については「同一提供者からの出生児は10名以内とする」という規制をかけている。同様のルールはデンマークにもあり、同一提供者からの妊娠回数は12回までに制限されている。

 デンマークに本社を置き世界100カ国以上に精子を販売するクリオスでは、注文を受ける際にクライアントがどの国で妊娠・出産するのか確認し、特定のドナーの精子が偏って輸出されたり制限を超えて販売されたりしないようなシステムになっている。

婚外子が極端に少ない日本は世界の“超少数派”

 不安その2。提供された精子で生まれた子どもが世間から色メガネで見られないか。

 これは、はっきり言って日本では色メガネで見る人もいるだろう。そう、日本では。もっとも、傍から見てシングルマザーの子どもだということはたやすくわかっても、精子バンクで購入した精子によって生まれた子どもだということはわかるはずもない。あるとすれば、「最初から父親はいない、母親は結婚しないで産んだ」という、いわゆる婚外子に対する偏見だろう。

 表1のグラフをご覧いただきたい。これは昨年OECDが発表した「総出生児数に占める婚姻外出生児比率の国際比較」、つまり婚外子の割合だ。

表1:OECDによる驚きの調査結果。日本のグラフはほとんど見えない。ちなみに数値はOECD加盟国(34カ国)については2014年、その他の国は各国最新のデータである(「OECD Family Database」のグラフをもとに作成)

 お堅いイメージのドイツでも35.0%、アメリカは40.2%、デンマークはなんと52.5%と過半数越え。しかし上には上があり、たとえばフランスは56.7%、メキシコは64.9%、チリに至っては71.1%が婚外子ではないか。ほとんどの国では婚外子がマイノリティでないことは一目瞭然だ。これでは婚外子に対する偏見など生まれようもないというもの。

 一方、婚外子が10%に満たないのは日本も含めてわずか5カ国しかなく、日本はビリから2番目の2.29%(2016年)で棒グラフではほとんど見えない。だから、繰り返すが、日本では婚外子を色メガネで見る人もいるだろう。でも世界的に見れば、色メガネで見る人のほうが超少数派だということを知っておくべきだ。