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「史上最も衝撃的なデビュー作」から26年…“韓国映画の巨匠”ホン・サンス作品に見る変化

2022/06/16
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 米・カリフォルニア芸術大学とシカゴ芸術大学などで映画を学び、約10年間米国に滞在し1992年32歳で帰国する。母親が設立した番組制作プロダクションのプロデューサーとして働いていたが、デビュー作で映画界のすべてのスポットライトを一身に浴びたのだ。

「ホン・サンスユニバース」を構築

 その後、『カンウォンドのチカラ』(98)、『オー!スジョン』(00)、『気まぐれな唇』(02)などの作品を通じて「ホン・サンスユニバース」というユニークな映画世界を構築し、海外でも独歩的な地位を確立していった。

「一般的な映画は一つの事件を中心にストーリーを展開していくが、ホン・サンス作品は対話を中心に展開される。自分の周りで起こったことや行き交った会話などを脚色して登場人物の日常を描き出す。その中から人間関係や奥底にある心理など、人生の多様な側面を観客に発見させる。100人が見れば100個の解釈が出るのがホン・サンス映画の魅力だ」(チェ・グァンヒ、映画評論家)

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「彼の映画は一見直観的に作られたように見えるが、実はとても論理的だ。テキストを細かく切り取ってみると、場面や台詞をすべて分析できる。日常の平凡さを超えた“非日常性”があり、人生の深淵にあるものを見抜き、発見させる。

 彼はよくフランス・ヌーベルバーグの代表的監督であるエリック・ロメールと比較される。自身もロメールが好きだと言い、影響を受けたという点を否定していない。でもいつの間にか乗り超えて自分だけの映画の世界を見つけたのではないだろうか」(オ・ドンジン)

撮影現場で台本を執筆する演出法

「ホン・サンスユニバース」を論じる時、欠かせないのが彼のユニークな製作技法だ。中低予算映画を毎年地道に製作してきたホン・サンスは、『浜辺の女』(2006)以降、製作会社を設立し、デジタルカメラの使用とともに超低予算映画製作システムに方向転換した。また、完成したシナリオがないまま撮影現場で台本を執筆する、即興演出法を持続している。

「監督初期時代に出資者のために事前にシナリオを書きました。ところが、現場では撮影環境の変動などによってしょっちゅう修正しなければならない。その後、私が数作品発表してからは、トリートメント(筋と構成)だけで人々が想像してくれて出資してくれるようになりました。話の始まりと終わりなど全体の流れは握っているので現場を見て判断しようと思いました」(〈ビニール袋がダサく見えるのも通念…それを捨てなければ〉イーデイリーSPN・2008年3月3日)

 セット撮影がなく、すべてロケ撮影を好むホン・サンスは、1台もしくは2台のカメラを使って特有のロングテイク(長回し)とズームを繰り返すユニークなカメラワークを駆使する。自分のカメラ技法について08年、映画評論家イ・ドンジンのインタビューで次のように話している。

「作る側がこったアングルでメッセージを伝えるより、観客に自由にみてもらった方がいいと思うのでロングテイクを好みます。また、ロングテイクで撮ると、持続時間が長くなり、監督も意図しなかった創造的な演技が俳優から発生することが多々あります。ロングテイクのカメラとは、俳優の偶然生まれる一回だけの演技をとらえる機械のようなものです」(イ・ドンジン著『イ・ドンジンブーメランインタビューその映画の秘密』より)