砂川 自衛隊を辞めた今だから言えるのですが、ナショナリスティックな感情で中国やロシアを敵視する隊員は一定数いました。だからこそ、国同士の軍事レベルの交流はすごく価値があると思います。韓国研修は日韓関係が悪化した際に一時中止されてしまったのですが、卒業生としては寂しかったですね。
小泉 軍事レベルでの交流が出来ていれば、どこかの国と戦争が起きても、少なくとも兵隊同士は憎みあわずに済む。ある種の矜持をもって相手に向き合えるかもしれませんね。ただ、ロシアとウクライナもかつて軍事交流を盛んにおこなっていましたが、現在の戦争では現場レベルで強烈な憎悪が渦巻いている。非常に残念なところです。
砂川 『小隊』が話題になってから、軍事関連のお仕事をいただくことが増えました。先日は航空専門誌『航空ファン』から取材を受けたのですが、バックナンバーの表紙に「ハインド(ミル24)」の写真が大きく使われていて驚きました。今回の侵攻でウクライナ軍に撃墜されている映像が話題になった、ロシアの攻撃ヘリコプターです。
小泉 旧ソ連諸国の標準装備ですよね。
砂川 攻撃の他に、人も乗せて移動することが出来る。上陸部隊を空から火力で支援しつつ、歩兵を送り込むという発想です。
小泉 そうそう。戦闘と輸送の役割を同時に担っているのが、ハインドの面白いところです。設計は輸送ヘリの「ミル8」をベースにして、胴体の中央部に兵士をのせるキャビンを残しているので、最大で8名の歩兵を収容できる。目的地に着いたら、横のドアをパカッと開けて歩兵が降りてくるんですね。
兵器に見るロシア軍のドクトリンとは
砂川 ハインドについては、ずっと不思議に思っていたことがあります。もし私がハインドの操縦士だったら、操縦と射撃に加えて、後部から兵士を降ろすタスクまで担うということですよね。西側の軍隊では、兵士を輸送するヘリには、護衛するヘリがつくことになっている。兵士が地上に降りている間は、もう片方が援護する形になります。ロシアの場合はそれを一機でやろうとするから、パイロットは相当気を使うことになる。ハインドの設計思想がどうなっているのか、ずっと疑問でした。
小泉 ロシア軍って、輸送ヘリを妙に重武装させたがるんですよ。彼らとしては、兵士を降ろす前に可能な限り敵を叩いておきたいのでしょうね。もしくは、武装ヘリがついていない状況でも何らかのミッションを果たせるようにしたい。新型のミル8AMTShも重武装なので、ロシアの軍事ドクトリンとしては、そういう設計に何らかのメリットを感じているのでしょう。
砂川 やはり国ごとに戦法の違いが出るのでしょうね。
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小泉悠氏、砂川文次氏による「超マニアック戦争論」の全文は「文藝春秋」7月号と「文藝春秋 電子版」に掲載されています。