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「火力調整会議が荒れるんです」「ロシアの尖兵中隊って強いな」小泉悠と元自衛官・作家の砂川文次が“ロシア軍のリアル”を語る

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東京大学先端研専任講師の小泉悠氏と、作家・元自衛官の砂川文次氏によるマニアック戦争対談を一部公開します。(「文藝春秋」2022年7月号より))

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「戦争自体をありのままに描写したい」

小泉 砂川さんが書かれた『小隊』を読んだ時、ロシアが北海道に攻めてくるという設定にすごく驚きました。作品が文芸誌(「文學界」)に掲載されたのは一昨年の夏ですが、私も当時はロシアが侵略戦争を始めるとは考えもしませんでしたし。

 もちろん米ソ冷戦時代には、ソ連軍の日本侵攻モノは非常にポピュラーな架空戦記のジャンルとして確立されていました。小林源文さんの『バトルオーバー北海道』(1989年)などが代表的な作品ですね。

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砂川 小林源文さんは私も読んでいました。新潟から上陸したソ連軍が東京を目指す『レイド・オン・トーキョー』が好きでしたね。

小泉 それが冷戦終結の後になると、ロシアが架空戦記のテーマになることは少なくなりました。日ロが軍事衝突を起こすとは考えにくくなったからです。砂川さんはなぜ冷戦後の現代にロシアと戦う小説をお書きになったのですか。

小泉悠氏 ©文藝春秋

砂川 そもそもの『小隊』執筆の動機は、文芸における戦争の描かれ方にありました。戦後直後は別にして、現在いわゆる純文学と呼ばれる領域で描かれるのは、比喩としての戦争という印象があって、逆にエンタメにおける戦争は作品を面白くするためのスパイスとして扱われていることが多いのかなと。その中で自分は中道的というか、戦争自体にスポットを当てて、ありのままを描写してみたいと思ったんです。

小泉 どこの軍隊でもよかった?

砂川 対象の選定にあたっては、私が自衛隊在職時、北海道に駐屯した経験があるということが大きかったです。また、自衛隊の訓練で採用されていた「敵」の戦法は、主に旧ソ連を想定したものがベースだった。ある程度の土地勘もあり、ロシア軍の北海道侵攻なら書けるかなと考えてぶっこんでみた感じですね。

小泉 ぶっこみましたよね(笑)。『小隊』を読むと初っ端から「F70」「COP」などディープすぎる専門用語が、注釈も無しに押し寄せてきて驚きました。一般読者には絶対にわからない単語だらけで、意図的に牽制しているかのような印象がありました。特に戦闘シーンはあまりにリアルで……。私も職業柄、長年ロシア軍をウォッチしてきましたが、「いやあ、全然わかっていなかったな」と反省したところもありましたし、同時に「ロシアの尖兵中隊ってやっぱり強いな!」と、軍事オタクとしての満足感もあった。非常に豊かな作品だと感じました。

砂川 ありがとうございます。

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