文春オンライン

「火力調整会議が荒れるんです」「ロシアの尖兵中隊って強いな」小泉悠と元自衛官・作家の砂川文次が“ロシア軍のリアル”を語る

note

砂川 だから、理詰めで考える人が多いのでしょうね。

小泉 自衛隊の人を見ていると、それぞれの所属先によって気質が違うように見えるんですよね。潜水艦乗りはロシアの潜水艦乗りにシンパシーがあるし、対潜哨戒機のP3C乗りは、韓国のP3C乗りに共感を抱いている感じがします。

 逆に、同じ対潜水艦部隊でも、船と航空ではバチバチのライバル意識があると聞きます。水雷屋さん(魚雷や機雷を運用する職種)が、哨戒機乗りに向かって、「あいつら、どうせ家に帰ったらビール飲めんだろ!」と嘲っていたり。

ADVERTISEMENT

砂川 ハハハ。

小泉 日本の純文学が戦争や軍隊を緻密に描けないのは、そういうリアリティをわかっていないからじゃないんですかね。まあ、火力調整会議なんて元自衛官でもない限り、誰もわからないと思いますが。

砂川 もう一つ、自衛隊のリアルを挙げるなら、第一線の部隊の人間って、国際情勢とか、あんまり難しいことは考えていないんですよ。ロシアがどうだとか、北朝鮮がどうだとかは興味がない。私も「次の休みは何するかな」ってことが、隊員生活において一番重要でした。

砂川文次氏 ©文藝春秋

小泉 皆さん、いい意味で「職業人」なんだと思います。

砂川 精神よりも肉体が重要といいますか。どこの国でも似たようなところがあると思います。幹部候補生学校時代に、韓国の陸軍士官学校まで研修に行ったことがありました。研修では、互いがどういった訓練をしているかをプレゼンするのですが、自衛隊の100キロ行軍のスライドが出てきた時、向こうの士官候補生たちが明らかに「あーっ!」みたいな顔をしたんですよね(笑)。

小泉 ほう。

砂川 日本の陸自と同じように、韓国の陸軍も訓練に100キロ行軍を取り入れているらしくて。国家や民族の垣根を越えた、肉体としての共感みたいなものがありました。

本物の軍人はグダグダ喋らない

小泉 よくわかります。モスクワ駐在の陸自武官と飲んだことがあるのですが、「この前、ロシア軍の工兵の演習を見に行ったんですけど、やっぱり日本と一緒なんですよ!」って、すごく嬉しそうに話すんですよね。「基本爆破があって、戦闘爆破があって……」みたいな。

砂川 職種の魂が出てしまう。

小泉 爆弾の扱い方、飛行機の飛ばし方……軍人はそれぞれの手触りの中で戦争や軍事のことを考えている。国家がどうだとか崇高な理念を語るのは、三島由紀夫的な世界観だと思うんです。文学の中の軍人は喋り過ぎなんですよ。「本物の軍人ってこんなことをグダグダ言わないよな」と思っていました。