それは、全く表情が存在しない、巨大な能面のような女の顔だったのです。
まるで1本の線のように細い目の中に小さな瞳が浮かんでいて、その虚ろな視線はまっすぐと僕を見つめているようでした。口元は、かすかに微笑んでいるような、でも感情が見えないような、そんな怖ろしい“無”の表情。
ピースなどしてにこやかに笑っている同級生たちの上に、半透明の巨大な能面が横になってべったりと写り込んでいるんです。見える人にはそう見える、というようなレベルではありません。まるで合成したかのような明瞭さでした。
「これ、やばくない?」
と見せると、母は血相を変えてすぐに僕を近所の氏神様に連れていきました。そこで懇意にしている神主さんと一言二言会話を交わすと、その写真はその場でお焚き上げされ、燃やされたんです。僕が止める隙はありませんでした。
母は「このことは絶対に人に言ってはいけないよ。写っているクラスメイトにも絶対」と僕に強く口止めしました。「どうして?」と聞いても教えてくれません。母は“視える体質”とかでは全くありません。では、一体何をそんなに恐れたんでしょう。
写真に写っている誰かに取り憑いた霊だろうか? それともこの郷土博物館に住み着いた地縛霊なのか? と様々想像したりもしましたが、真相はわかりません。
現像したカメラ屋さんに話を聞いてみたら、「博物館だから何か能面みたいなものが反射したんじゃない?」と言われ、僕もその理屈で一応は納得しました。
いやでも、あんな郷土博物館に能面があるわけがないんです。縄文時代の遺跡が展示してあるところですし、時代も合わない。現像過程でなにかが写り込んだ可能性もなくはないですが、あんなはっきりした女の顔が画面いっぱいにというのもおかしな話です。
実は、この心霊写真を見た瞬間は「やった! ついに撮ったぞ。これで大好きなテレビ番組に投稿できる!」と小躍りしたんです。でも、母の行動を見ているうちに自分もどんどん怖くなってしまって、母の言うがままになってしまいました。
今となっては、あの写真を焼いてしまったことを、かなり後悔しています。