「ねえ、バイクの音、聞こえない?」
するとTは、
「うん、ずっと聞こえてる」
やはり、Tにも聞こえていたんだ。
僕たちに聞こえていたのは、何十台ものバイクがまるで暴走族のように隊列を組んで、
ぼぼぼぼぼぼぼぼぼ!!!! ぼーーーん!
と爆音を上げて走る音だったんです。
僕たちは、前も後ろもはっきり見渡せる一本道の街道を走ってきました。すれ違ったり追い越したりするバイクは一台もありません。バイクらしきライトの光すら見た記憶がなく、側道もない。遠くのバイクの音が反響するような山なども一切ないんです。
この時、僕もTも怖くて言葉にはできませんでしたが、脳裏にあったのは「旧善波トンネル」のことだけでした。僕たちは、大勢の人がバイク事故を起こしているという噂の場所に行ってきたのです。そして、その帰り道ずっと見えないバイクの集団に囲まれて走っている。
何かを連れてきちゃった……。そう思いました。
事故るかもしれない……という不安で車内の空気はどんより重くなり、怖さを何かでごまかさないと頭がおかしくなりそうな状態です。仕方ないので、相対性理論の「LOVEずっきゅん」とか細川たかしの「北酒場」を爆音で流し、熱唱しました。それでもずっと耳元では「ぼぼぼぼぼぼ」と大量のバイクの音は鳴り続けます。僕たちの緊張はピークを迎えていました。
東京に入り、街の光が見える大きな交差点を過ぎた時、なぜか音はピタリと止まりました。それ以降、いくら耳を澄ませても聞こえることはありませんでした。
INFORMATION
著者である豊島圭介さんが監督する新作映画「 妖怪シェアハウスー白馬の王子様じゃないん怪ー」が6月17日より全国公開中です。