文春オンライン

「怖い話」が読みたい

「うん、ずっと聞こえてる」オカルト好きの東大生が心霊スポット帰りに体験した“ありえないはずの奇妙な音”

「うん、ずっと聞こえてる」オカルト好きの東大生が心霊スポット帰りに体験した“ありえないはずの奇妙な音”

『東大怪談』より#2

2022/06/21

囲まれる

 僕は1浪して東大に入りました。文科3類入学なので、もともと文学部系に進学するのが普通なのですが、理系に転向して工学部の都市工学科に進みました。

 民俗学好きが高じて、人間とオバケが共存する「幽霊都市」というのを作る研究を始めたんです。ちょうど心霊スポット巡りにハマっていた時期でもあって、心霊と土地の関係性で何か考えられないかと思ったというのもありました。でも、構造力学やコンクリートの計算が難しすぎてついていけなくなり、文系に戻って研究テーマを「天狗」に変更し、卒論もそれで書くことになったんです。

 この頃、一緒に心霊スポット巡りをするTという仲間がいたんです。彼は高校の同級生で当時は早稲田の学生でした。大学5年目だった冬に、そのTと一緒に神奈川県の心霊名所「旧善波トンネル」に行こうということになりました。

ADVERTISEMENT

 「旧善波トンネル」は、そこで「準一くん」という少年がバイク事故で亡くなって以来、「じゅんいち」という名前の男性が次々と事故を起こしているという噂のある場所で、トンネルの前に謎の地蔵が設置されていたり、「もう死なないで準一」という不気味な看板が立てられていることでも有名でした。

 心霊スポットには数多く行きましたけど、実際に幽霊を見たり霊障に遭ったりということはほとんどないんです。その日も、夜の10時くらいに現場に着くと特に何事もなく一通り見終わって、「じゃあ、はなまるうどんでも食って帰るか」という流れになりました。

 Tの運転する車の助手席に僕はいました。深夜の国道はすれ違う車も同じ方向に向かう車もほとんどありません。街灯や時折通過するガソリンスタンドやコンビニの灯りがあるくらいでほとんど真っ暗な一本道を僕とTは東京に向かいました。

 実は、現場を出てからずっと奇妙な音が聞こえていたんです。でも、空耳かもしれないなと思いTには黙っていました。Tはまっすぐ前を見て、僕との雑談に応じています。何かが聞こえている様子はありません。30分ほどそんな時間が続きましたが、ふと会話が途絶え、不自然な沈黙が車中を支配しました。

 例の音はまだ聞こえています。僕は耐え切れなくなってTに聞きました。