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「玉三郎さんがあまりに綺麗でよだれ垂らしそうになっちゃって」

玉三郎 お二人と出会ったのは、30年以上前。研修生を卒業なさって、澤瀉屋さんのところに弟子入りされた時ですよね。喜多村君で印象深かったのは、歌六さんの代役で『太功記』十段目の久吉をなさって『あ、研修生で代役ができるんだな』と。まだ20歳ぐらいだった?

緑郎 19ですね。

玉三郎 19……。そんなに若い頃から知っているのよね。

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坂東玉三郎

緑郎 僕が覚えているのは、玉三郎さんが『金閣寺』の雪姫をおやりになった時、研修生を卒業したばかりの僕が、上から桜を散らす役目を務めたんです。そうしたら、もう綺麗で綺麗で見惚れちゃって。思わずね、口開いてたんでしょう……よだれ垂らしそうになっちゃって(苦笑)。

玉三郎 あなた上にいたの⁉ それは知りませんでした。

雪之丞 私は研修を卒業して初めての舞台が『忠臣蔵』で、若旦那(玉三郎)は亡くなった團十郎さんと三段目の落人をやられていました。私は三段目、四段目に出たんですが、あんぽつ(駕籠)に踵を引っ掛けられてしまって……。舞台中血まみれだから何でだろうって思ったら、自分の踵だったんです。

玉三郎 そうでした。

雪之丞 あの時、由良之助役が仁左衛門さんで、おもむろに懐紙を懐から出すと、演じながら舞台中の血を拭いていって下さったんです。その後の場面で、奥方から腰元から真っ白の着物でそこを通らなきゃいけないものだから。結局、私は翌日から休演することになって、若旦那に「申し訳ございません、踵をケガしたので休ませていただきます」と申し上げたら、「ああ、大事にしておくれ」と仰ったのを覚えています。

 その後、博多座で『三人吉三』を若旦那がなさった時には夜鷹で出たんですが、若旦那を見て「ああ、綺麗だなぁ」って思ったら、花道でセリフを忘れちゃったということもありました……いまだに同じ状況です(苦笑)。

緑郎 稽古のために『ふるあめりか』の映像を観返しているんですが、観るたびに大笑いしちゃうんですよ。お園が登場するところから、もうずーっと。自分の役のところを後回しにして、何回も巻き戻してしまいます。すると最後に、雰囲気が一転して、雨がザーッと降る音の中、お園がはじめて心の内を明かす「ふるあめりかに袖はびしょぬれ」「みんな嘘さ、嘘っぱっちだよ。おいらんは、亀勇さんは、淋しくって、悲しくって、心細くって、ひとりで死んでしまったのさ」という言葉が立ち上がってくる。

思誠塾の岡田(喜多村緑郎)に、お園(坂東玉三郎)は攘夷女郎の最期を語ってみせる

雪之丞 私もほんとに同じで。今回の私のお役は序幕の行燈部屋がメイン。そこを何回も観るべきなのに、どうしても続きが観たくなって、最後まで観て、また頭から観るというのを日々繰り返しております。